――何故、そんな事を思ったのか。



 ある日の夜――

 なかなか、寝付けなかった俺は、
パソコンの電源を入れ、特に目的もなく、IRCを起動する。

 と、その時……、

 妙に気になる、
チャットルーム名が、俺の目に飛び込んできた。

 その名を――
 『アストラルバスターズ』――

 まるで、何かに導かれるように……、

 俺は、マスウを操作し……、
 そのチャットルームへと接続する。

 そして――

ゆーくん:こんばんは。

まーくん:……こんばんは。

     ・
     ・
     ・








 これが、彼との――

 長瀬 祐介との――
 初めての出会いであった。









Heart to Heart 外伝
雫編

「長瀬 祐介 〜チャットルーム〜」










まーくん:……お一人ですか?

ゆーくん:いえ、もうすぐ、友達が来るんですけど……、

まーくん:もしかして……、
     俺は、お邪魔だったりします?

ゆーくん:そんな事ないですよ。
     せっかくですから、皆で話しましょう。








 とまあ、そういうわけで――

 そのチャットルームの常連者である、
『ゆーくん』の計らいで、俺は、話の輪に参加させて貰える事となった。

 とはいえ、新参者の、
俺が相手では、当然、話が弾む訳も無く――


まーくん:…………。

ゆーくん:…………。


 ――しばらく、お互いに沈黙が続く。

 さすがに、それに堪えかねた俺は、
話の種になればと、自分の高校の名を出してみた。

 すると……、


ゆーくん:――東鳩高校?

まーくん:知ってるんですか?

ゆーくん:うん、まあ……、
     実は、その高校には、何人か知り合いがいてね。

まーくん:へえ〜……、


 意外なことに……、
 『ゆーくん』は、この話題に食いついて来た。

 訊けば、彼も、俺と同じく、
高校生で、しかも、隣街の高校に通っているらしい。

 となれば、あとは簡単……、

 そのへんをキッカケにして、
二人の話題は広がっていくわけで……、


ゆーくん:そういえば……、
     そろそろ、文化祭の時期ですよね?

まーくん:そうですね〜。
     俺は一年生だから、文化祭ってのは初体験です。

ゆーくん:じゃあ、尚更、楽しみですね。(笑)

まーくん:はい……、(^^;


 いつの間にか……、

 俺達は、お互いの高校の、
文化祭の内容について、語り合っていた。

 クラス毎の展示品――
 出店される模擬店の数々――
 各部活の派手なパフォーマンス――

 などなど――

 たった二人だけでも、
俺達の話題は尽きること無く、盛り上がっていく。

 だが、まさか……、

 この話題が……、
 予想外の展開に発展するとは……、


ゆーくん:ところで……、
     文化祭では、キミは何をするのかな?

まーくん:え〜っと、ですね……、


 話し始めて、早30分――

 俺達は、すっかり打ち解け、
いつの間にか、砕けた調子で語り合っていた。

 もちろん、最低限のマナーは守りつつ……、

 と、そんな最中、彼の質問に、
俺は、ちょっと思案してから、おもむろにキーを叩く。


まーくん:クラスの方では、展示物をする予定なんですけど、
     俺達は、友達の同好会の手伝いをするつもりなんですよ。

ゆーくん:――同好会?

まーくん:はい……エクストリームって、知ってます?


 俺が、そう言った途端……、
 急に、『ゆーくん』からの反応が無くなった。

 ――もしかして、接続が切れたかな?

 そう思いつつ……、
 俺は、しばらく、彼の反応を待つ。

 そして……、


ゆーくん:もしかして……、
     松原さんの知り合いだったりする?

まーくん:――ええっ!?Σ( ̄□ ̄)


 思いも寄らぬ人物の名前……、

 それを示す文字が……、
 モニターの、IRCウインドウに表示された。

 それを見て、俺は、驚きのあまり、一瞬、キーを叩く手が止まる。

 ま、まさか……、
 ここで、葵ちゃんの名前が出てくるとは……、

 確かに、『ゆーくん』は、
東鳩高校に知り合いがいる、とは言っていたけど……、

 ――待てよ?
 ということは、もしかして……、


まーくん:じゃあ、浩之の事も知ってたりします?

ゆーくん:うん、良く知ってるよ……、
     隆山で色々あって、その時に……」


 不意に出できた、葵ちゃんの名前――

 さらには――
 浩之の事も知っていて――

 そして、最後に出て来た『隆山』という単語――

 それらの情報が、俺の頭の中で、
綺麗に纏まり、一つの答えを導き出す。

 早計過ぎるだろうか……、

 いや、しかし……、
 どうしても、これしか考えられないし……、

 ――ええい、ままよ!

 俺は、意を決し……、
 ゆっくりと、確かめるようにキーを叩く。


まーくん:……ガディム事件ですね?

ゆーくん:そこまで知ってるんだ……、
     だったら……、


 ―― 『ゆーくん』の名前が変更されました。 ――


祐介:もう、本名でも構わないよね?
   例の事件を知ってる、という事は、
   キミは、浩之君に、信用させているみたいだし……、

まーくん:じゃあ、俺も……、


 ハンドルネーム『ゆーくん』……、

 いや、祐介さんが、
IRCの名前の設定を、本名へと変える。

 ネット上のこととはいえ……、

 だからこそ、顔すら知らない相手に、
自分の本名を教えるのは、とても危険な行為だ。

 にも関わらず、祐介さんは、俺に、自分の素性を明かしてきた。

 それは、俺に対して……、
 同時に、浩之に対しての信頼の証……、

 ならば、浩之の親友である俺も、その信頼に応えねばなるまい。

 俺は、祐介さんに習い、
すぐさま、IRCの名前の設定を変更した。


祐介:じゃあ、改めて……、
   僕は、雫高校二年『長瀬 祐介』です。

誠:――東鳩高校一年『藤井 誠』です。


 長瀬 祐介――

 その名前を見て……、
 俺は、あまりの偶然に、またしても驚く。

 何故なら、彼の名前は、
以前、エリアから聞いた事があったのだ。

 ――そう。
 エリアと出会ったばかりの頃――

 ガディム事件のあらましを聞かされた時に――

 そうか……、
 この人が、電波能力者……、


祐介:何て言うか……、
   これって、凄い偶然だよね……、(^^;

誠:そうですね……、(^^;


 偶然――

 確かに、この出会いは、
奇跡と言っても良いくらいに、物凄い偶然だ。

 無数にあるIRCの中から、
俺が、このチャットルームを選んだのも偶然――

 相手が、祐介さんだったことも偶然ー―

 そして、何よりも――
 俺達に、共通の知人が居たことが――

 多くの偶然が積み重なって……、

 俺と祐介さんは、
直接ではないにしても、こうして、出会う事が出来たのだ。

 ホント、世間ってのは狭い……、

 キーを叩きながら、俺は、
そんな事を考え、思わず苦笑をもらす。

 きっと、モニターの向こうの祐介さんも、同様だろう。


祐介:それで、誠君……、
   どういう経緯で、浩之君と知り合ったんだい?

誠:え〜っと、ですね……、
  何処から話せば良いのやら……、

祐介:焦らなくても、最初からで良いよ。
   ああ、でも、どうせなら、
   沙織ちゃん達が来てからの方が手間が省けるかな。

誠:じゃあ、それまでは、秘密ということで……、(笑)

祐介:はははは……、
   何だか、皆が来るのが待ち遠しいな〜。


 と、言う訳で――

 一気に親睦を深めた、
俺と祐介さんは、再び、雑談に華を咲かせ始める。

 先程までとは違い、共通の話題も増え……、

 キーを叩き、言葉を紡ぐ手は、
休む事無く動き続け、次々と、楽しい会話を広げていく。

 そして――



さおりん:やっほ〜、祐クン♪
     ゴメンね、遅れちゃって〜っ!

みずぴー:こんばんは……、
     あら、初めて方がいらっしゃいますね?

るりるり:……新しいお友達だね。



 いつしか、IRCには――
 『新城 沙織』さんを筆頭に――

 祐介さんの友人達も集まり始め――

     ・
     ・
     ・
















沙織:555〜〜〜〜Z!?
   jbshyZwf@<5l3xykbev@suk〜Z!?

瑞穂:沙織さん、落ち着いて……、
   文字設定が、英数字のままですよ。

沙織:えええ〜〜〜〜っ!?
   誠君ってば、エリアさんの恋人なの〜っ!?

祐介:沙織ちゃん……、
   いい加減、カナ打ちする癖、直そうよ。(^^;

瑞穂:でも、エリアさんが、こっちの世界に来ていたなんて……、

沙織:ビックリだよね〜……、
   しかも、ルミラさんとも知り合いらしいし……、

瑠璃子:……顔が広いね、藤井ちゃん。

     ・
     ・
     ・
















 やれやれ……、

 どうやら、今夜は、
まだまだ、寝られそうにないみたいだな。








<おわり>
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