とある夏の夜――
この季節特有の寝苦しさに目を覚ますと、
私は部屋の窓を開け、ベットに腰掛けながら、夜空を見上げていました。
そんな時……、
私はふと、思い出してしまいました。
昔の私……、
誠さんと出会う前の私の事を……、
Heart to Heart
番外編 「夏の夜空に想う」
この澄んだ夜空の――
その瞬きのひとつ――
――そこが私の生まれた場所。
私が生まれ育った、この世界で起こったこと。
魔王の復活――
村の襲撃――
両親の死――
辛い日々が続き、いっそ楽になれたら、どれだけよかっただろう。
両親を失なった事により、深い悲しみにくれた私は、
自分の心を、氷塊の中へと閉じ込めてしまいました。
冷たく強固なその氷は、何人たりとも近づけようとはしなかった。
孤独……悲観……喪失……、
あらゆる負の感情だけが、
硬く強固な氷を作り上げ、私を包み込んでいました。
そんな時、手を差し伸べてくれたのは、ティリアさんでした。
とても暖かいその手は、
私の周りの氷を溶かし、私に希望と勇気を与えてくれた。
それからしばらくして――
魔王は倒れ、故郷に平和を……平穏な日々を取り戻した。
国中は英雄を称え、民は平和な日々の訪れに歓喜した。
『本当にありがとうございます』
『おねーちゃん、ありがとう』
『勇者ご一行バンザーイ!! 魔王討伐バンザーイ!!』
――そう。
確かに平和は戻り、私自身も笑顔を取り戻したように思えた。
しかし、私は、その時の笑顔が本物でない事を知らなかった。
表では笑っている私の、その心の奥深くで――、
僅かに残った氷の中で――、
いつまでも、泣き続けている少女がいることに……、
その事に気付いたのは……、
お城での祝賀パーティーでのことでした。
初めて訪れた舞踏会。
そのあまりの優雅さと華やかさに、
私達はしばし我を忘れ、呆然としていました。
しばらくして我に帰ると、いつの間にか、私だけがその場に取り残されていました。
ティリアさんとデュークさんは、楽しそうに中央で踊っていますし、
サラさんは、この機会にと、高そうなお酒を嗜んでいました。
そして、私は――
「エリア様、一曲踊っていただけませんか?」
「エリア様、あちらで私と、果実酒などいかがでしょうか」
「エリア様――」
「エリア様――」
絢爛豪華な衣装に身を包み、彫刻を思わせる顔立ちの貴族や御曹司が、
私を舞踏会のパートナーとして誘うため、声をかけてきたのです。
しかし、私はそのお誘いを受ける気にはなれませんでした。
なぜなら、彼らは皆、口裏を合わせたかのように私を、
『英雄』『偉大なる魔法使い』としか、仰らなかったからです。
それ以外にも、私の見た目を称えてくれる人はいましたが、
そんな人たちも、私自身については、何も言ってはくれませんでした。
そして、その時……、
私は本当にかけがいのない、
大切なモノを失っていたことに気付いたのです。
頼れるもの――
自分が素直になれる場所――
自分が甘えることを、笑顔で許してくれる人――
本当の私……、
両親を亡くし、その温もりを失い彷徨っている、小さな少女として見てくれる人――
少なくても私の故郷では、
私は英雄の一人という、重責から逃れることはできない。
たとえ、故郷から離れようとも……、
いえ、故郷から離れれば離れるほど、私はその重責から逃れることは出来ません。
頼られる存在であるが故に、頼れる人は少なくて――
甘えたいと思っていても、甘える事ができなくて――
自分という存在を……、
心の奥底からキライになり始めていた。
そんな虚無にも似た思いに駆られていたあのに頃……、
私はちょっとした試みで、サークレットで増幅した転移魔法を試していました。
もしかしたら……、
あの時、私は無意識のうちに心のどこかで願っていたのかもしれない。
私を優しく包んでくれる……、
私を英雄でも偉大な魔法使いでもない、ただの少女としてみてくれる存在。
私を、この冷たい世界から助け出してくれる――
太陽の様な人を――
――そんな人との出会いを、私はあの時、望んだのかもしれない。
そして……、
再びやって来てしまった異世界で……、
今、私の願いは……、
形をなして、私の側にいる。
気がつくと、私はタンスの扉を開け、誠さんの部屋へ来ていました。
そして、ベットで気持ち良さそうに眠っているのは、この部屋の主であり、私の想い人。
その人の眠る傍らに腰掛けると、
その顔を覗き込みながら、返ってくるはずのない、言葉を投げかけました。
「――誠さん」
「す〜〜……、す〜〜……」
「私がどんなに変わってしまっても、あなたは側に居てくれますか?」
「す〜〜……、す〜〜……」
「私から魔法の力がなくなっても、私を見つめてくれますか?
私が英雄として、称えられることがなくなっても、私を想ってくれますか?」
「誠さん……」
あなたは優しい人ですから、今の言葉を聞いたら、
きっと笑顔で、私の言葉に答えてくれるでしょう。
でも、答えが分っていたとしても、それでも、私は聞きたいんです。
あなたの口から……、
あなたの言葉で……、
私への想いを、聞かせて欲しいんです。
そして、私は、誠さんの手に、
自分の手を重ねると、また誠さんの顔を見つめます。
先ほどとは違い、今度は手からあなたの温もりを感じことが出来る。
それは、淋しがりやな私の、小さな我侭――
この部屋にあなたがいる証――
私以外の誰かがいる証――
私が独りぼっちでない証――
そして――
私は今日も祈るのです――
神様、もし、今一度、こんな私の願いを聞いてくださるのなら……、
どうか、この人と私を引き離さないでください。
この人の優しさは、私を笑顔にしてくれる。
この人の温もりは、私の心を癒し、満たしてくれる。
この人だけに、私の全てを捧げようと思うから……、
だから……、
だから、私からこの人を奪わないで下さい。
<おわり>
『技神的』ラジオトーク
みね:みなさ〜ん! 今年の夏はいかがお過ごしでしたか?
技神:天候不順、冷夏etcでありましたが、みなさん、お体の方は大丈夫ですか?
技神:さて、お送りしました『夏の夜空に想う』いかがでしたでしょうか?
みね:今回は、エリアちゃんが誠くんに出会って、どう変われたのかについて、書いてみたんだよね。
技神:時期的には、ED後、Leaf Figthの前という、時期ですね。
エリアはやっぱり、責任感とか強いから、実は影では、こんな風になっていたんじゃないかな?
って、感じで書いてみましたね。
みね:なるほど、そうなんですか。
それでは、もうひとつ聞いてもいいですか?
技神:なんですか?
みね:なんで9月なのに『夏の夜』なんですか?
技神:それは、もちろん。今年の夏を振り返るって意味で……、
みね:まさか、出来上がってみたら、9月だった……っとか?
技神:それを言う〜な〜!!(泣)
ダッダッダッダッダッ!!
みね:ああっ、技神さん、ちょっと、ねぇ……、
作者逃走により、これにて……、
<COMPULSION END>
<コメント>
エリア 「はあ〜……」(;△;)
誠 「どうした、エリア? そんな深い溜息なんかついて……」(・_・?
エリア 「それが、またお城の舞踏会の招待状を頂いてしまいまして……」(T_T)
あかね 「……行きたくないの?」(・_・?
エリア 「舞踏会と言えば聞こえは良いですけど……、
意味合いとしては、こちらの世界で言う合コンみたいなものです。
求婚されたり、宮廷魔術師への勧誘だったり……」(−−;
誠 「世界を救った英雄と親密になれれば、それだけで箔が付く、ってわけか……、
そんなくだらねぇもの、無視すれば良いだろ?」(−−メ
エリア 「そういうわけにもいきませんよ。
私は、一応、村の代表者なんですから……」(;_;)
フラン 「――では、誠様達も同席なさってはどうでしょう?
そうすれば、エリア様に近付く方々を牽制できますし、
エリア様の夫である誠様の存在を認知させる事もできます。
マナーについては、僭越ながら、ワタシも同行して、フォローさせて頂きます」(^_^)
さくら 「それは良い考えですっ! 好きな人と舞踏会で踊るなんて、女の子の夢ですよ!」(^▽^)
誠 「ちょっと場違いな気もするが……、
でも、美味い物も、たくさん食べれそうだしな〜」( ̄¬ ̄)
エリア 「……あ、あまりはしたない真似はしないでくださいね」(^_^;
誠 「評判が下がるなら、それで良いんし゜ゃないか?
勇者だろうが、英雄だろうが、エリアは元々は普通の村娘なんだし」ヽ(
´ー`)ノ
エリア 「普通の村娘、ですか……ふふふ、そうですね。
では、一緒に来ていただけますか?」(*^^*)
誠 「――おう、任せろ! お城のご馳走か……楽しみだな〜」(^▽^)b
エリア 「ふふふふ……♪」(*^^*)