Heart to Heart
      To Heart編

    特別編その1 「二人の基準」







「……ん?」

 放課後……。

 さくらとあかねと一緒に校門へと歩いていると……、

「あ、浩之さん達です」

 校門の近くで、浩之と志保の姿を見かけた。

 何やってんだ? あんなトコで。
 あかりさんでも待ってるのか?

「おーい、浩之ー! どうしたんだー?」

 俺が声をかけると、二人はこちらに目を向ける。

「おう、誠か。あかりを待ってるんだよ。
図書室に借りた本を返しに行ってるんだ」

 なるほど、やっぱりそうだったか。

「さくらちゃんとあかねちゃんも一緒か。
相変わらず仲いいな、お前ら」

 と、浩之は微笑ましいものを見るような目で俺達を見る。

「そう言うお前らだって、仲いいじゃねーか」

 俺が言い返すと、志保が食いついてきた。

「ちょっと! アタシとヒロのどこが仲がいいのよ!?」

「誰も、お前の事なんか言ってねーよ。
俺は浩之とあかりさんのことを言ってるんだ」

「キーッ! ムカツクわねぇっ!
アンタねぇ、先輩に対する口の利き方を知らないのっ!?」

「お前に敬語なんぞ遣う必要は無いっ!」

「なんですってー!! この
『藤田 浩之弐号機』のクセに!!」

「誰が弐号機だ! この
タマネギ頭っ!!」

 と、俺と志保が言い合いをしていると……、

「よう、藤田。何やってんだ? こんなトコで。ずいぶんと賑やかだな」

 今度は矢島が現れた。

「ああ、矢島か。あかりを待ってんだよ」

「そ、そうか……」

 浩之の言葉に、矢島は複雑そうな表情を見せる。

 無理もないわな。
 あかりさんにフラれてから、まだそれ程たってねーんだろうし。

 それに……、

「や、やあ……園村さん、河合さん」

 と、居心地悪そうに片手を上げる矢島。

 まあ、さくらとあかねにも以前、派手にフラれてるから
どんな顔していいのか分かんねぇよな。

 俺がちょっとだけ矢島に同情していると……、

?」

 さくらとあかねは、矢島を指差し、同時に言った。

「え? だから、おれ……矢島だけど」

 さくらとあかねの言葉にうろたえる矢島。

「そんな名前の人、知り合いにいましたっけ?」

「ううん、あたし知らない」

 と、さくらとあかねは顔を見合わせる。

 おいおい。確かに知り合いとは言えないかもしれんが、
あれからまだそんなにたってないぞ。

 自分がフッた男のことくらい覚えてろよ。

 ……いや、よく考えたら覚える必要なんかねーか。

「そ、そんな……」

 自分のことを二人に忘れ去られていた事を知り、
矢島はかなりショックを受けているようだ。

「ゴメンね。あたし達、まーくん以外の男の子の事って
すぐに忘れちゃうみたいなの」

「はい。特に思い出すと
不愉快になる記憶なんて、
次の日にはもう……」

 ……うあ……そのセリフはちょっと惨いぞ。
 あ〜あ……矢島の奴、地面に「の」の字書いてイジケてるよ。

「ねえ……あたし達とあの人、何かあったの?」

 あかねが俺に訊いてくる。

「あのな、矢島はお前らに交際を申し込んで、
あっさりと断られたんだよ」

「そうだったんだ。。じゃあ、誤らないといけないね」

「そうですね」

 俺の話を聞いたさくらとあかねは、
そう言うとイジケている矢島に歩み寄っていく。

 別に誤る必要は無いと思うんだが……。
 うんうん。さくらもあかねも優しい子だなぁ。

「あの、すみません、矢島さん」

「ごめんね、矢島先輩……さっき言ったの嘘だよ」

 二人の謝罪の言葉に、矢島は涙を浮かべつつ二人を見上げる。

「うぅ……園村さん、河合さん……本当は覚えててくれたんだね?」

 嘘という言葉に矢島は救われたような表情を浮かべる。
 まあ、嘘も方便だよな。

 そして、矢島に優しく微笑みかけながら、二人は言う。

「すみません。さっき言った『次の日には忘れてる』というのは間違いです」

「うん。まーくんが教えてくれたような状況だったなら、、
多分、
三秒後に忘れてたよ」




















 …………合掌。




















「離せっ、藤田っ!!
おれはもう死ぬっ!!」



「うわあああっ!! 待て待てっ!
あの二人の言うことは気にするなっ!
ただ、あの二人が特別なだけだっ!!」


 泣き叫びながら走り去ろうとする矢島を、
慌てて浩之が羽交い締めにする。

「……不憫な奴」

 まあ、あっちは放っとくとしよう。

「ねえねえ、じゃあ、何でヒロや雅史の事は覚えてるの?」

 志保がさくらとあかねに訊ねる。

「浩之先輩は、まーくんを連想させるから……ね? さくらちゃん」

 あかねの言葉にさくらも頷く。

「じゃあ……雅史は?」

 『雅史』という名前に、さくらとあかねは敏感に反応し、
その表情も真剣なものに変わる。

「あの人は……危険人物ですから」

「うん。要チェックだよね」

 と、言いつつ、あかねはシャーペンの芯をカチカチと出している。
 ……そのネタはいい加減古いぞ、あかね。

「女の子の名前は?」

「別に、普通に覚えてますけど」

「ふーん……じゃあさ、誠に言い寄ってくる女の子がいたりしたら、
それこそキッチリ覚えて、危険人物リストに入れてたりするわけ?」

「ううん、別にいちいち覚えてなんかないよ」

「どうして?」

「だって、
覚えておく必要ありませんから

「…………」(大汗)

「…………」(冷や汗)

 二人のセリフに、俺と志保は一瞬固まる。

「あのさ、それって……どういう意味かな?」

 なんとなく想像ついたが、俺は一応訊いてみた。

「そりゃあもちろん……(クスッ♪)」

『悪・即・斬』ですね(クスッ♪)」


 
ぞわぞわぞわぞわ……


 二人の不敵な笑みに、俺は戦慄を覚えた。

「アタシ……アンタに必要以上近付くの控えることにするわ」

 と、志保は引きつった笑みを浮かべる。

「……そうした方がいいぞ」

 ……怖いよ、お前ら。








 そういえば、矢島の方はどうなったかな?

 俺は浩之と矢島の方に目を向ける。

「……そ、そうだよな……あの二人が特別なんだよな。
別に、俺の影が薄いわけじゃないよな」

「そうそう。だから、気にするなよ」

 おっ、浩之の説得で、矢島も立ち直ったようだな。

「ひろゆきちゃ〜〜〜〜〜ん」

 と、そこへタイミング良く、あかりさんがやって来た。

「ゴメンね、浩之ちゃん。待たせちゃったね…………どうしたの?」

 現れてすぐに怪訝な表情になるあかりさん。
 どうやら、この場の妙な雰囲気を察したようだ。

「か、神岸さん! 神岸さんはおれのこと、覚えてるよね?
忘れたりしてないよね?」

 と、あかりさんにすがり付く矢島。

 おいおい。覚えてるも何も、クラスメートじゃねーのかよ?
 いくらなんでも、忘れてるわけねーだろ。

「えっ? えっ?」

 いきなりの矢島の態度に、あかりさんは戸惑っている。
 まあ、無理もないわな。

「…………」

 ジッと矢島を見つめるあかりさん。

「…………」

「…………」

「…………ど、どうしたの? 
輪島君




















 
……とどめ刺しやがった。




















「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!
今、すごく間があったぁーーーっ!!
しかも、名前間違えたぁーーーっ!!」



 涙を流しながら、逃げるように走り去る矢島。

「…………」

「…………」

 俺も浩之も、あまりに哀れで、声をかけることも出来なかった。








 強く生きろよ、矢島。

 俺達が、お前の分も幸せになってやるからな。








<おわり>
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