Heart to Heart
To Heart編
番外編 その8 「松原 葵」
わたしのクラスには、とても仲の良い人達がいます。
わたしの目の前の席に座る藤井 誠君と、
その両隣に座る園村 さくらちさんと河合 あかねさんのことです。
何でも、三人は幼馴染みだそうで、
園村さんと河合さんは、藤井君のことを親しみを込めて『まーくん』と呼びます。
いえ……親しみというよりは『愛』を込めてと言った方が正しいですね。
何故なら、園村さんと河合さんは、
藤井君のことが大好きだからです。
二人とも、幼馴染みとしてではなく一人の男性として、
藤井君のことを愛しているんです。
わたしは、誰よりも一番近くで見ているからよく分かるんです。
例えば……、
「はい、まーくん……あ〜ん☆」
「お、おい、あかね……いくらなんでも教室でそれは……」
「あ〜ん☆」
「………………あ〜ん」
「えへへ〜♪ まーくん、おいしい?」
「あ、ああ……」
「あ、あの……まーくん……わたしも(ポッ☆)」
「はいはい……もう好きにしてくれ」
「そ、それじゃあ……あ〜ん☆」
「あ〜ん」
なんてことを、人前で堂々としたりします。
お昼休みでは、こんなことは日常茶飯事です。
いえいえ、これだけじゃありません。
他にも……、
「あの、まーくん……教科書を忘れてしまったので、
見せてくれませんか」
「あ? 別にいいけど。じゃあ、机くっけろよ」
「はい♪ じゃあ、失礼しますね☆」
「あっ! まーくん、あたしも忘れちゃったー♪」
「……わかったわかった。くっつければいいだろ」
「わーい♪」
と、必要以上に身を寄せ合って授業を受けたりしてます。
さらには……、
「まーくん、今夜は晩ゴハン作りに行ってあげるよ♪」
「何が食べたいですか?」
「んー、そうだなぁ……今夜はさくらとあかねが食べたいなぁ」
「えっ……(ポッ☆)」
「あ……(ポポッ☆)」
「……ダメか?」
「あ……えっと……」
「……まーくんが、どうしてもっていうなら……(ポッ☆)」
「はははっ! 冗談だよ、じょーだん」
「も、もう! まーくんってば!」
「……まーくんの……えっち♪」
という会話を放課後に平気でしてたりもします。
わたしの席が藤井君のすぐ後ろの席になるため、
こういった光景が、毎日のように目の前で繰り広げられているんです。
とにかく、ちょっと呆れてしまうくらい仲が良い三人なんですけど、
不思議と不快感を覚えたことはありません。
だって、見ていてとっても楽しいんです。
必ずと言っていい程、毎日のように何かをしてくれるんです。
時には笑わせてくれたり……、
時にはあったかい気持ちにさせてくれたり……、
時には、何か新しい発見をさせてくれたり……、
ホント、見ていて飽きません。
そんな三人を、誰よりも近くで見ていて、
わたしこの頃よく思うんです。
こんな人達と、お友達になれたら、楽しいだろうな、って。
でも、藤井君のお邪魔になったら悪いし、って思ってしまって、
なかなか話し掛けることができません。
はあ……一体、どうしたらいいんでしょう。
と、わたしがそんなことを考えながら、
練習の為にいつもの神社へとやってくると……、
「よう、葵ちゃん。遅かったじゃないか」
すでに藤田先輩が準備を整えて待っていました。
「あっ! すみません! 遅くなっちゃって!
今日は掃除当番だったものですから!」
「いいっていいって。ところでさ、葵ちゃん。
今日は葵ちゃんに紹介したい奴らを連れてきたんだ」
「はい?」
「葵ちゃんとは同じクラスらしいから知ってると思うけど……」
と、藤田先輩は、草陰に向かって手招きしました。
そして、草陰から三人の人影が姿を現す。
その人達とは……、
「「「よろしく、葵ちゃん!!」」」
<おわり>
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