Heart to Heart
      To Heart編

番外編 その4 「HMX‐12 マルチ と HMX‐13 セリオ







「すみませ〜ん! カツサンド2個と、コロッケパン3個と、
メロンパン2個と、ツナサンドを4個くださ〜い!」

 たまにはパンじゃなくて学食でメシを食べようと思い来てみると、
購買の方からそんな声が聞こえてきた。

 何だ何だ?

 俺がそちらに視線を向けるのと同時に、
パンに群がる飢えた獣達の中から女生徒が弾き出されていた。

「あうう〜……よし、もう一度……すみませ〜ん」

 その女生徒は再び喧騒の中へと飛び込み、
品物の名前を読み上げている。
 どうやら、パシリをやらされてるみたいだな。

 でも、あんなんじゃ、買えるわけねーぞ。
 なにせ、ここは取ったモン勝ちってルールがあるからな。

 ――ドンッ!

「あうっ!」

 ――ドンッ!

「あうぅ〜」

 弾き出されては飛び込み、飛び込んでは弾き出されて……、
 何度も何度もそれを繰り返す女生徒。

「……やれやれ」

 俺は軽く肩を竦めると、生徒達の中へと身を割り込ませた。

 えーっと……確か、カツサンド2個と、コロッケパン3個と、
メロンパン2個と、ツナサンドを4個、だったな。

 俺は慣れた手つきでパンを掻き集めると、
購買のおばさんに代金を払い、群れの中から飛び出た。

 で、また弾き飛ばされてきた女生徒の背中を受け止め、
パンの入った紙袋を渡す。

「ホレ」

「はい?」

 俺が差し出した紙袋を咄嗟に受け取ったものの、
彼女は何がなんだか理解できていないようだ。
 キョトンとした顔で受け取った紙袋を見つめている。

「それ、さっきからお前が叫んでたやつ。
代わりに買っといてやった」

 俺がそう説明してやると、

彼女はうよやく状況が理解できたようだ。

「はわわわわわわわっ!」

 彼女は俺の顔も見ずに、慌てて深々と頭を下げる。

 そして……、

「いつもいつもすみません、
浩之さん!

 と、言った。

 なぬっ!? 浩之!?
 この子、もしかして藤田 浩之の関係者か!?

「おいおい。俺は浩之じゃねーぞ」

「はい?」

 彼女は再びキョトンと俺の顔を見つめる。
 負けるのもなんなので、俺もジーッと見つめ返した。

「…………」

「…………」

「……はわわわわわわわっ!
す、すすすすすすす、すみませーーーーんっ!
わっ、わっ、わたしったら、人様の名前を間違えてしまうなんて、
何て失礼なことをーーーーーっ!」

「い、いや、失礼もなにも、初対面だし……」

「そ、それにパンまで代わりに買っていただいて、
とんだご迷惑をおかけしてしまって――」

「あ、あの、だから……」

「わたしったらホントにドジで、何をやっても失敗ばっかりで、
いつもいつも浩之さんのお世話になって――」

 ……人の話聞けよ、おい。
 ったく、こりゃ相当な慌て者だな。

「まあまあ……とにかく落ち着け」

「は、はいっ!」

 元気良く頷いて、ゆっくりと深呼吸する女生徒。
 ふむ、慌て者だが、少なくとも素直なようだな。

「どうだ? 落ち着いたか?」

「……はい」

 よし。これでやっとまともに話が出来る状態になったぞ。

「とりあえず、立て替えた金、返して」

「あ、はい」

 俺がそう言って手を差し出すと、
彼女は慌てて俺にパンの代金を渡す。

「すみません。わたしの代わりにパンを買って頂いて、
本当にありがとうございました」

 そう言って、彼女は猛烈な勢いで頭を下げる。
 ……ん?
 その時は、俺は妙なことに気がついた。

「何だ? その耳ンとこにつけてるのは?」

 本来、耳のあるべきところに、妙な物がついている。
 ヘッドホンを長く尖らせたような金属製の物体だ。
 それが左右についていて、後頭部の方まで伸びている。

「あ、これは一応センサーになっているんです」

「センサー?」

 彼女の言葉に首を傾げる俺。

「はい。申し訳ありません。自己紹介が遅れました。
わたくし、このたび、この学校で皆さんと一緒に
お勉強させていただくことになりました、
汎用アンドロイドの『HMX‐12 マルチ』といいます。
どうかよろしくお願いします」

 と、再び彼女はペコリと頭を下げた。
 アンドロイドだって!?
 この子がぁっ!?







 とりあえず、彼女のクラスにパンを届けてから、
俺は彼女を伴って屋上へとやって来た。
 昼メシは、まあいいや。
 それよりもこの子……『マルチ』の方が気になる。

「……藤井 誠さんとおっしゃるんですかー。
素敵なお名前ですねー」

「そ、そうか?」

「はい。とっても素敵ですー」

 そう言って、ニッコリと微笑むマルチ。

 うーむ……この笑顔……。
 とてもロボット……いや、メイドロボとは思えん。
 街中でたまにメイドロボを見かけたりもするけど、
あいつらはこんなに表情や感情が豊かじゃねーぞ。
 そうかっ! もしかして
乙女回路が組み込まれているのかも!
 ……って、何の話じゃいっ!

「あのー……どうかしましたか?」

 俺が心の中で一人ボケツッコミをやっていると、
マルチが怪訝そうに声をかけてきた。

「い、いや、なんでもない。ところでさ、マルチ」

「はい。なんでしょう?」

「お前、さっき俺の事を浩之って奴と間違えてたみたいだけど、
その浩之って、もしかして二年の藤田 浩之のことか?」

 そう。俺はこれが訊きたかったんだ。
 そのために、わざわざ屋上まで来てもらったんだからな。

「はい。そうです。わたしったら本当にドジで、色々と失敗しちゃって、
その度に浩之さんのお世話になってて……」

 なるほどねー。浩之も結構お節介な奴だな。
 ……って、俺も人のこと言えないか。

「お世話にって……例えば、さっきの俺みたいに、
代わりにパンを買ってくれたりとかか?」

「はい。それ以外にも、重い荷物を持って頂いたり、
お掃除を手伝って頂いたり……いつもいつも浩之さんにご迷惑を……」

 と、俺に説明しながら、シュンと俯き、ブルー入っていくマルチ。
 やれやれ……どうせ『自分はメイドロボのクセに情けない』
なんて事を考えて落ち込んでるんだろうな。

「あのな、マルチ。浩之はそんな事を迷惑だなんて
思っちゃいねーよ。困っている女の子を助けるのは、
男として当然なんだからな」

「で、でも……わたしはロボットですから」

「あのな、ロボットだろーが何だろーが、
その前にお前は女の子なんだよ。
少なくとも、俺や浩之にとってはな。
それに……」

 俺はそこまで言うと、ポンッとマルチの頭に手を置き……、

「こんなに可愛くていい子が一人で頑張ってるのを
放っておけるわけねーだろ」

 と、いつもあかねにしている様になでなでした。

「あっ……」

 ポッと赤くなるマルチ。

 ……ん?

 何だかさくらやあかねの反応に似ているな。
 試しに、もういっちょなでなで。

「あっ……」

 マルチはポーッとなったまま小さく息を漏らす。

 むむっ……面白い。
 それに、可愛いぞ。

「はあ〜……なんだか浩之さんに
なでなでしてもらってるみたいです〜」

 なんだ? 浩之も同じようなことしてるのか?
 やれやれ……とことん似てるんだな、俺とあいつって。

 そんな事を考えながら、俺は昼休みが終わるまで
ずっとマルチをなでなでしてやった……。








「あっ、誠さーーーん!」

 帰り道に暇つぶしで寄ったゲーセンから出ると、
聞き覚えのある声に呼ばれた。

 あの特徴的な耳飾りは……マルチだ。
 見れば、傍にあるバス停で、俺に手を振っている。

「よお、マルチ。バス待ちか?」

「はい! セリオさんと一緒に帰るところなんです」

 ……セリオ?
 そういえば、マルチの横には
ほっそりとした髪の長い女の子が立っている。

 ウチの学校の生徒じゃねーな。
 街中でよくみかけるお嬢様学校の制服。
 確か、西音寺女学院、通称『寺女』の制服だったな。

 彼女が何者なのかは、耳を見ればすぐに分かった。
 マルチのそれと同じようなセンサーがついている。
 この子もメイドロボなのだ。
 多分、マルチ同様、その学校で運用試験をやっているんだろう。

「……藤井 誠さん、ですか?」

 マルチと違って、抑揚の無い口調で、
彼女……セリオは話し掛けてきた。

「あ、ああ。でも、何で俺の名前を?」

「さきほど、マルチさんよりお話を伺いました。
はじめまして。わたくし『HMX‐13 セリオ』と申します。
よろしくお願いします」

 馬鹿丁寧にお辞儀をするセリオ。

 うーむ、何だか、マルチと違ってロボット臭いなぁ。
 いや、本当はセリオみたいなのが普通なのだろう。
 俺を見るセリオの瞳には、マルチの様な感情は感じられない。

 ……いや、ちょっと待て。

 よく見ろ、誠。
 本当に、セリオから感情は感じられないか?

 彼女のガラスのように透き通った真っ直ぐな瞳の奥……。
 何となくだけど、そこにぬくもりの様なものを感じる。
 それは、マルチにあるのと同じもの。
 マルチと同じ様に、純粋なもの……。

「あの……私の顔に何かついているのでしょうか?」

「え? あ、いや、何でもない」

 いかんいかん。ついまじまじと見てしまっていたようだ。
 セリオは無表情ながらも、どこか戸惑っているような雰囲気だ。

 ……あれ? 何だかメイドロボらしくない反応だぞ。
 まさか……セリオもマルチのように……。
 よし。ここはいっちょ確認がてら、少しからかってみるか。

「ただ、さ……」

「ただ?」

 言葉を続ける俺に相槌を打つセリオ。

「可愛いなー、って思ってさ」

「…………」

「…………」

 一瞬の間……そして……、

「……マルチさんが、ですか?」

 セリオのそのセリフに、マルチの顔がポッと赤くなる。

 なるほど。そう切り返してきたか。

「マルチもそうだけど……セリオ、お前もだよ」

「…………」

「…………」

「……お戯れを(ポッ☆)」

 数秒の沈黙の後、恥ずかしそうに俺から視線を逸らすセリオ。

 確認成功!
 やっぱり、セリオには感情がある!
 ただ、それを上手く表現できないか、
そういった機能がついていないだけなんだ。

「冗談なんかじゃねーぞ。本当に……」

 と、もっとセリオの反応を楽しもうと、
俺が話を続けようとした……その時っ!


 
がいんっ!


「はうっ!!」

 俺の脳天に衝撃がはしった。

 痛みに頭をクラクラさせながら後ろを向くと、
そこにはさくらが立っていた。
 その手にはフライパンが構えられている。
 しかも、
横ではなく縦に
 こ、こいつ、角で殴りやがったな……。

「まーくん、ヒドイです!
わたしやあかねちゃんに内緒で浮気なんて!」

 そう言うと、さくらは手で顔を覆って泣き出す。
 内緒じゃなかったら、浮気してもいいのか?
 ってゆーか、そもそも浮気って内緒でするものだと思うが。

 ……って、ンなこと言ってる場合じゃないっ!

「ちょっと待て、さくら! 誤解だ! この二人を良く見てみろっ!」

 俺はマルチとセリオを指差す。
 俺に言われ、二人をジッと見つめるさくら。

 しばらくして、その表情がハッとなる。
 どうやら、二人がメイドロボだと気付いたようだ。

 そして、さくらは上目がちに俺に顔を向けると……、


「……めかふぇち?」


「違うわっ!!」


 すかさずツッコむ俺。
 しかし、さくらは納得しない。

「でも、さっき二人に『可愛い』って言ってました。
わたしやあかねちゃんにだって、あまり言ってくれないのに……」

 そう言って、潤んだ瞳で俺を見つめるさくら。
 その視線は、密かに何かを期待しているような……。

 ……まさか。ここで俺に言えというのか、そのセリフを。

 勘弁してくれよ。そんな恥ずかしいマネできるかよ。
 ……でも、ここで言わなかったら、後が怖そうだしなぁ〜。

 しゃーない……やるしかないか。

「……お前も、可愛いよ」

 うう……恥ずかしい。
 俺のそんな思いも知らず、目を輝かせるさくら。
 そして、ちょっと照れながら上目遣いに……、

「ホントですか?」

 と、もう一度訊いてくる。
 ぬう……まだ言わせるつもりか。

 まあ、いいか。喜んでくれてるんだし。

「ああ、ホントホント」

「じゃあ、信じてあげます☆」

 機嫌をなおしたさくらは、フライパンをしまう。

「でも、もし本当に浮気なんかしていたら……」

「……していたら?」

「…………
クス♪

 
ぞぞぞぞぞぞぞぞ……

 さくらの微笑みを見て、俺の背筋に戦慄がはしる。

「それでは、まーくん、また明日」

「あ、ああ」

 俺は顔を真っ青にしたまま、立ち去るさくらを見送った。

「「……ご苦労様です。誠さん」」

 マルチとセリオの同情の言葉が優しかった……。








<おわり>
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