Heart to Heart
To Heart編
番外編 その3 「矢島(爆笑)」
「……あたしね……昨日、告白されちゃったの」
中庭で昼メシを食っていると、いきなりあかねがそう言ってきた。
「なっ! なななななな、なにぃっ!?」
突然。とんでもない事を言うものだから、
不覚にも、思いっ切りうろたえてしまった。
「えへへ〜♪ ビックリした?」
俺のそんな反応を見て、あかねはどこか嬉しそうに微笑む。
「ん……まあ……ちょっと、な」
ホントはかなり驚いた。
って、言うか……正直、焦った。
あかね……一体、何て答えたんだろう?
俺のそんな思いを察したのだろう。
あかねは俺に寄り添ってきた。
「大丈夫だよ。ちゃんと断ったから。
あたしには、まーくんがいるもん☆」
……ったく、恥ずかしい事をハッキリ言う奴だぜ。
なでなで……
なでなで……
あかねの気持ちが嬉しくて、
俺はいつもよりたくさんなでなでしてやった。
「はにゃ〜……♪」
いつものように、仔猫の様に喉を鳴らすあかね。
そんなあかねを撫でながら、俺は必死でしかめっ面を保っていた。
くぅ〜……ちょっとでも気を抜いたら、嬉しくて顔がニヤけそうだ。
「……で、お前に告白してきた奴って、一体どんな奴なんだ?」
黙っていると雰囲気が甘くなっていきそうなので、
俺はあかねに話しを振った。
「うん。えっとね、2年の『矢島』って先輩だよ」
矢島ね〜……そいつ、ロリータ気味なのかなぁ?
あかねの話に、俺はそんな事を思う。
なにせ、あかねは見た目小学生の天然おバカだ。
そのあかねに告白するって事は、
絶対ロリータ入ってるに決まってる。
……ま、俺もあんまり人の事は言えないけどな。(笑)
「それでね、『あたしには好きな人がいるの』って言ったら、
『誰なんだ?』って訊いてきたから、『幼馴染みだよ』って言ったの。
そしたら、真っ青な顔してフラフラとどっかいっちゃった」
あかねがその時の状況を説明してくれる。
うーん……典型的なフラれパターンだな。
同じ男としては、ちょっと哀れに思えたりもする。
ここは、いつか彼にもふさわしい相手が現れることを祈ってやることにしよう。
と、俺がそんな事を考えていると……、
「ねえ、まーくん」
あかねが俺を見つめているのに気が付いた。
「ちょっとは、ヤキモチやいてくれた?」
「……さあ、どうだろうな」
「もう……まーくんのイジワル☆」
とか言いつつ、あかねは俺にギュッと抱き着いてくる。
「ったく、いつまでたっても甘えんぼだな、お前は」
そんなあかねをかいぐりかいぐりしていると、
ふと、俺はさくらの事を思い出した。
「そういえば、さくらのやつ、遅いな」
確か、誰かに呼ばれたから、そっちの用事を済ませてから
来るって言ってたっけ。
一体、どんな用事なんだ?
俺もあかねも、もうメシを食い終わっている。
いくらなんでも、遅すぎるぞ。
「……ったく、何をグズグズしてんだ、あいつ」
と、俺が愚痴った。その時……、
「もうっ! いい加減にしてくださいっ!」
どこからか、さくらの声が聞こえてきた。
でも、何だか様子がおかしい。
いつになく口調がキツイぞ。
声がした方を見ると、さくらがスタスカタとこっちに歩いてくる。
一歩一歩に、不自然なくらい力が入ってるぞ。
ヤバイな……ありゃ、機嫌が悪い時の歩き方だ。
……何があったんだ?
「……ん?」
さくらに声をかけようとした時、
さくらの後ろをついて歩く一人の人物に目が止まった。
短めの髪をツンツンに立てた背の高い男だ。
何だか、しきりにさくらに話しかけてるみたいだけど……。
「……だから、何度も言ってるじゃないですか!
わたしには好きな人がいるんです!
ですから、あなたとお付き合いすることはできません!」
「こっちだって何度も言ってるじゃないか。
その『好きな人』ってのが誰なのか教えてくれなきゃ
納得できないんだよ」
……なるほど、そういうことか。
だいたい事情の察しはついたぞ。
どうやら、昼休みにさくらを呼び出したのはあの男らしい。
で、さくらに告白したんだけど、あっさり断られて、
それでもしつこくつきまとってるわけだ。
フラれたんなら、潔くキッパリ諦めろよな。
ったく、女々しい野郎だぜ。
……っと、ンなこと言ってる場合じゃないな。
サッサッと助けに行ってやらないと。
俺が立ち上がろうとすると……、
「あっ! あれ、矢島先輩だよ!」
と、あかねが男を指差して言った。
なにぃっ!! あいつが『矢島』だとっ!?
あんにゃろ……あかねにフラれたばっかのクセに、
もうさくらに手を出そうとするとは……許せんっっっっ!!
俺は二人のところにズカズカと歩いていき、
ズイッと二人の間に割って入った。
「まーくん☆」
俺を見て、さくらは顔を輝かせると、
ススッと俺の背に隠れた。
「さくらに何か用ッスか?先輩」
俺は矢島を睨み付けた。
矢島の方が背が高いので、俺が見上げる姿勢になる。
「お前こそ何の用だよ?おれは彼女と話してるんだ。
お前なんか関係ないぞ」
俺に負けじと、矢島も睨み返してくる。
「さくらは嫌がってるみたいですけど。
それに、俺はさくらの幼馴染みなんで、無関係ってわけじゃないんですよ」
「……幼馴染み?」
俺のセリフに、矢島はハッとした表情になる。
「幼馴染みって……まさか、園村さんの好きな人って……」
恐る恐る訊ねる矢島に、さくらは頬を赤くしつつコクンと小さく頷く。
「そ、そんな……」
さくらの答えに、ヨロヨロと後ずさる矢島。
「またか……またなのか……二度ならず三度までも、
おれの前に立ち塞がるのか……幼馴染みが……」
わなわなと、震える声で呟く矢島。
そして……、
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!
何でおれには可愛い女の子の
幼馴染みがいないんだぁーーーっ!」
と、血を吐くような叫び声を上げながら走り去っていった。
「…………」
「…………」
「……何だったんだ? あれ」
「……さあ」
矢島が、以前、あかりさんにもフラれたことがあることを
浩之から聞いたのは、それから三日後のことだった……。
<おわり>
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