Heat to Heart 外伝
To Heart篇
最も「危険な」戯れ
くのうなおき
何気なく見上げれば既に一面を赤く染め上げた夕焼け空、
まるでBGMかのように響き渡る商店街を慌しく行き来する人達のざわめき、
更にその声の間隙を縫うかのように、あちこちの食品店から出てくる香ばしい匂いは、
嫌が応にもオレに夕食時である事を、腹に「ぴりり」とくる空腹感と共に知らせていた。
同好会のある日は、あかりはいつもより夕食を大目にして待っているから、
買い食いなどせずにできるだけ真っ直ぐ帰るようにしている。
例え綾香にとっつかまった時でも、せいぜいコーヒー一杯飲むくらいだ。
せっかくあかりとマルチがオレの為に夕食の支度をしてくれているんだ、下手に買い食
いなんかして夕食を残してしまうような事だけは避けたいしな。
腹にくる空腹感はいつもよりきつめで、オレは早足歩きから駆け足に切り替えて家路を急ごうとした。
その時……、
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!
か、勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
商店街の喧騒すら小川のせせらぎに聞こえてしまうくらいの絶叫が、
幾重ものエコーを伴いながら、まさに引き裂かんがばかりに夕焼け空に激しく響いた。
その、心当たりが充分すぎるほどある声が聞こえた方向に目を向けると、
予想通りの人間が、近づくものは全て蹴散らさんと、
モンゴル騎兵武田騎馬軍団もかくやという勢いで突進してくる。
『それだけの突進力があれば、サッカー部に入れば即レギュラー間違いないぜ……』
口に出して言えば、速攻でマシンガンの雨嵐を受けそうな事をふと考えながら……、
「よう、まこ――」
ピューーーーーーーーーーーーーン!!
ゴウッ……!!
「…………」
「と」が出るまえに、オレの存在なぞ眼中にない……、
嫌、目の前にあるあらゆる全てのものが眼中にない様子で、
藤井 誠は、オレの横を突風を巻き起こして走り去っていった。
「――と?」
オレは髪と服を風に揺らしたまま、ただただ走り去っていく友の後ろ姿を見送るだけだった。
直後、誠が走ってきた方向からただならぬ気配がオレにまとわりついてきた。
およそ人が発するものとは思えないその気配の主を見つけようと、
じっと目をこらして見てみるが一向にその気配の主の姿は見えない。
『まさか、ガディム……!? それにしては、まとわりつく感じは似ているが、
邪気とか不快極まりないってものではねーし……』
その気配の正体の判断をつきかねていると、視線の先に小さな二つの影が見えた。
『ひょっとしてあれ……?』
ヒューーーーーーーンッ!!
「か……」と続ける間もなく、その二つの影はオレの横をあっという通り過ぎて行き、
それから三拍子ばかり遅れて……、
ズドォォォォンッ!!
「うわわわわわわわわっ!!?」
先程、誠が起こしていった突風よりはるかに強烈な……いや、「衝撃波」がオレを直撃した。
たまらず、ヨタヨタ……っと、ふらつくオレの耳元に……、
「も〜〜〜っ、誠君ったら、いい加減観念して
『キス百連発』に挑戦させなさぁ〜〜〜〜い!!」
「無駄な逃走は体力の浪費でしか
ありませんよ〜〜〜……って、あらあら〜〜♪
浩之さん、こんにちわ〜〜〜〜〜♪」
「今、ちょっと立てこんでるから、
また今度ね〜〜〜〜♪」
という声が聞こえたかと思うと、振り向いて目でその後を追おうとした時には、
その二つの影は、もう視界のはるか先へと消えていた。
「ド、ドップラー効果かよ……」
人間単体ではどうやっても引き起こせない現象を、いとも簡単にやってのける二人に、
ただただ呆れる他なく、茫然と二人が走り去った先を眺めていると、しばらくして……、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
と、また空を引き裂くような、先程よりいっそう悲哀がこもった悲鳴が夕焼け空に響き渡った。
『やっぱり逃げ切れなかったか……』
オレは友の不幸に、ただただ目を閉じ頭を下げるだけであった。
それが、オレがあいつの為にしてやれる唯一の事だった。
あの二人……はるかさんとあやめさんの前では、オレの力など無力に等しいものだ。
いや、あの二人だけでなく、およそ「母親」と名のつくものの前では、オレの存在など……、
「ゴジラの前にノコノコと出てきた戦車」
「七つの傷を持つ暗殺拳の使い手に挑むモヒカン狩りのあんちゃん」
「白色彗星の前の地球艦隊の戦艦」
……以外の何物でもない。
つまりは……「いるだけ無駄」ということだ。
「母親」と名のつく存在に比べれば、ガディムだってコーイチさんだって、
「オレでも勝てるかも知れない」と思えてしまう、実際は勝てるわけねーけど。
しかし、そう思えてしまうくらい、『あの一人と一体』でさえ、
「母親」という存在の前では非力な存在となってしまうのだ。
『しかし、オレだって人の心配ばかりしてられねーんだよな……』
オレの脳裏に一人の女性が浮かびだされると、オレは「ふう……」とため息をついた。
すると、背後から先程の二人と同じ気配がまたオレに向かってきた。
いや、「向かってきた」じゃない!! この感じ……オレを特定して「狙ってきて」いる!!
その気配の主の名前を脳裏に引き出すより先に、オレは転がるように横に跳んだ。
次の瞬間、その気配の主と思われる黒い影が、ちょうど先程オレがいた場所に寸分の狂いも無く……、
「浩之ちゃ〜〜〜〜〜ん♪」
という、能転気な声と共に突進して来て、オレのいた場所から1mくらい過ぎた所で……
「とっとっと……」
たたらを踏みつつ急停止した……って、あのスピードから急停止できるのかよ!!
オレがその影の一連の動きをただ呆れて眺めていると、
「影」の正体であるひかりお母さんはぷうっと頬を膨らませてオレを睨みつけた。
その仕草表情は、とてもじゃないが当年もって37歳、高校三年生の娘がいる人のものではない!
この人、成人式を境に、
肉体の変化がストップしてるんではなかろーか?
「ぶぅ〜〜……浩之ちゃん、何でいきなりよけるのよぉ……?」
「あんな勢いで突っ込まれてきたら、誰だって条件反射で避けますって!!」
「別にとって食べちゃうわけじゃないんだから、男の子だったら、
こそこそ逃げようとせずに将来の母親の『愛』を真正面からがっちりと受け止めて欲しいわ」
「とって食べるわけがない……って、さっきの勢いとオレが感じた気配は、
どうみたって『狩猟者』のそれでしかないんですが……」
「いやねえ、勘ぐり過ぎよ。たかが『母と子のスキンシップ』をするだけじゃないの♪」
「『アレ』のどこが、『母と子のスキンシップ』ですかっ!!?」
ここが商店街のど真ん中という事などすっかり念頭から消し去って、オレは涙まじりに絶叫した。
「子供」を絶対逃げられないように、がっちりと「抱きしめて」、
舌を差し入れるキスをする「母と子供のスキンシップ」なんて、オレは聞いた事もないし、
もし「京に一」の確率でそれが存在するにしても、
オレは断固としてそれを認めない、認めてたまるかっ!!(汗)
「でも、はるかさんやあやめさんは、しょっちゅう誠君にしてるみたいだし……」
「あの二人を基準に考えないでくださいっ!!」
先程より涙を三割増しにしてオレは叫んだ。
まったく……以前からそういう「母と子のスキンシップ」を迫ってはきていたが、
所謂「藤井一家」と知り合ってからは、その内容が『過激』になったってのが大問題だ。
オレにとってひかりお母さんは、それこそ生まれた時から今まで、色々お世話になっている、
「もう一人の母親」みたいなもんだし、そういう人がオレに優しくしてくれるのはすげー嬉しい。
だからこそ、ここ最近の「過激な『母と子』のスキンシップ」はやめてもらいたいんだけどなぁ……、
「あらあら、あきらさんとは
『もっと』過激な事やってるわよ♪」
「人の考えてる事を読まんで下さいっ!!!」
怒鳴ってはみたものの、ふと一方で好奇心も沸いてくる。
オレとひかりお母さんは「母と子」の間柄であって、
いくらひかりお母さんが豊満なボディラインを露にしたバニーガール姿で迫ってきたり、
舌を濃厚に絡ませまくったキスをしてきたりしてもだ、
やっぱりそれは「子供」に対する「愛情表現」なわけで、「一人の男性として見た愛情表現」との間には、
越えることなど絶対不可能な距離が存在しているわけだ。
「子供に対する愛情表現」ですらこの状態だというのに、
さらにに遥かその先を行く「一人の男性に対する愛情表現」って、一体どんなもんだというのか?
と、後数ミリで妄想の領域に入り込むような考えを、ついうっかり巡らしていると……、
「すきありっ♪」
ぎゅうっ☆
「し、しまったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!(大汗)」
オレが思考のエアポケットに入った隙を逃すわけもなく、
ひかりお母さんはすかさずオレの首に両手を回してしがみついてきた。
オレは無駄な抵抗とは知りつつも、ほんのわずかな一縷の望みに期待して、
ひかりお母さんを振りほどこうと必死に首を「ぶんぶんっ!!」と振った。
しかし、いくら首だけでなく、体全体を全身の力を込めて振っても、ひかりお母さんの両手は、
まるでタコの吸盤のようにぴったりと張り付き、両足は大木が根を下ろしたがごとくぴくりとも動かない。
「ぜい……ぜい……ぜい……」
結局は無駄な努力に体力を殆ど使い切ってしまったオレは、
ただ虚しく息を切らせるだけだった。
逆にひかりお母さんの方は、体力の消耗一切無し。
それどころかオレの抵抗が完全に沈黙したのを察してか……、
「えへへへ〜、浩之ちゃ〜ん♪」
と、「自分の娘」がオレにするのと同じような甘え声を出しながら、オレの頬に頬を摺り寄せてくる。
そして、しばらくの間オレの頬の感触を堪能した後……、
「ん〜〜〜♪」
と、オレの唇に自分のそれを寄せてきた。
オレは残り少ない体力を使って、顔を逸らし避けた。
「もうっ、まだ観念しないのぉっ」
と頬を膨らませるひかりお母さん。
その姿はあかりがやっているのかと思うくらい、そっくりで可愛らしいのだけれど……、
それとこれとは話が別だぁっ!!
いくら若々しかろうが、美人であろうが、優しかろうが……、
「将来あかりもこんな風に成長すると思うと萌え〜」
と思っていようが……、
自分の恋人の母親とキスなんかできるかぁっ!!
「でももう、何度か『しちゃってる』けどね♪」
「だぁ〜〜かぁ〜〜〜らぁっ!! 人の考えを読まんで……」
ひかりお母さんの方を向いて叫んだ時、ひかりお母さんがにっこり微笑みを見せ、
と同時に、オレは致命的ミスを犯した事に気付いたわけなのだが、時既に遅かった。
「んふっ☆(んちゅ〜っ)」
「んん〜〜〜〜〜〜っ!!!!(汗・汗・汗!!)」
首を動かそうにも、オレの両頬にかかっているひかりお母さんの両手が、
万力のようにオレの頭を固定し、ぴくりとも動かず……、
もはやここに至ってはひかりお母さんのキス攻撃を耐えるしか、
オレに選択肢は無いわけだが……、
頼むから舌入れるのだけ
は勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!
「んむう・・・・・(やだ♪)」
もう、どにでもしてくれと、内心滂沱の涙を流しながら、
オレはただただ「時が流れる」のを待つしかなかった。
この外道極まりない「母と子のスキンシップ」の唯一の救いともいえない救いは、
大体一分くらいで終わるという事だ。
ただし、オレには
数時間に思える一分だけどな……(大泣)
「はふぅ……♪」
その数時間に思える一分間が過ぎ、ひかりお母さんは唇を離すと、不満気にオレを見た。
「もう……浩之ちゃんったら、全然反応してくれないんだから……」
「当たり前ですっ!!」
半分やけっぱちになって怒鳴り返した時……、
ボスッ!!
突然後ろから、ダンボールのようなもので頭を殴られた。
ボスッ!! ボスッ!!
更に2回、3回とダンボールの攻撃が続き……、
「誰だっ!?」
と背後を振り返ると、そこには両手で抱えるくらいのダンボール箱……、
もとい、ダンボール箱を抱えているあきらお父さんが、恨めしげにオレを見ていた。
『な、なんでそんなでかいダンボール箱抱えてるんですか……!?』
ダンボール箱を抱えたスーツ姿のいい年した男が、
その実直そうな顔を「ぷうっ」と膨らませてこちらを恨めしげに見る姿は、
オレに「母と子の『いかがわしい』スキンシップをやってしまった」後ろめたさよりも、
「何でそんな姿で商店街うろついているのか?」という疑問の方を優先させ、
俺が思わず突っ込みをいれようとした時、あきらお父さんは、
ダンボール箱を路上に落とすように下ろして突然しゃがみ込んでしまい、
バックに黒くもやもやとした「いじけ」オーラを撒き散らしながら地面にのの字を書き始めてしまった。
「あ、あ……の……ですね……?」
オレが声をかけても先程の恨みがましい目で「じと〜〜〜」と見返してきて、
また「ふんだ、ちくしょー」と呟きながら地面にのの字を書き出す。
その姿ははっきり言って、ふてくされて駄々をこねる幼児の姿そのものだ。
どうみたって高校一年の娘がいる男、ひかりお母さんのような若々しい美人妻が、
惚れて惚れて惚れ抜いている男とは、とうてい思えるものではなかった……、
というか、多分……、
オレ達の様子をばっちり見ちゃったんだろうな……、
そこら辺は仕方ないのかもしれないよな……、
「ひかりお母さん見てくださいよ!! だから言わんこっちゃない……」
ひかりお母さんに向き直って抗議すると、
さすがにひかりお母さんも「やり過ぎたか」と、すまさそうな表情でうつむいていた。
「うう……ひかりんったらひどいよ……」
相変らず駄々っ子のようにぶつぶつと呟きながら訴えるあきらお父さん……、
一方的にキスをされたとはいえ、当事者の一人でもあるオレはただ頭を下げる他無かった。
「あきらさん……ごめんね……つい……」
ひかりお母さんが、あきらお父さんの傍によって、あきらお父さんの顔を覗き込むように語りかけた。
あきらお父さんはようやく顔を上げて、恨みがましそうにひかりお母さんを見つめ……、
「三十秒オーバーしてたぞ……」
へ……?
「えへへへ……ごめんね。
浩之ちゃんが全然反応してくれないから、
ついムキになっちゃった♪」
へ、へへ……?
「む〜〜う、まあそういう事だったら仕方ないが、
それでもあんまり時間をオーバーすると、
さすがに俺もヤキモチやいちゃうよ、ホント」
と、苦笑まじりでひかりお母さんの頬をつんとつつくあきらお父さん……、
あ、あの……?
「うん、これからは気をつけるよ♪」
と、頬をついた指を両手で包み込むようにして、
そのままあきらお父さんの手に頬ずりをするひかりお母さん……、
ええと、そのですね……?
何かこう……、
「あの、お二人ともお取り込み中すいませんが……」
おずおずとオレは声をかける。
「ん、なんだい?」
「ええとですね、なんかお二人の考えてることと、オレの考えてることとで、
何かこう……大きな食い違いが見受けられるような気がするんですが。
えっとその、今、問題になっている事項っていうのは、
つまりその……あきらお父さんの目の前で、オレとひか……」
「うん、そりゃいくら『母と子のスキンシップ』とはいえ、
一分以上キスしていたら、さすがに、
俺だって拗ねるに決まってるじゃない
か」
そういって照れくさそうに笑うあきらお父さん。
違う!! そうじゃなくてもっとこう……根本的な部分において問題があるんじゃないのか!?
至極当然な事を言おうと思っても、この二人に上手く伝える言葉が見つからずに、
ただ口をぱくぱく開けて必死に言葉を捜しているオレに構わずというか、既に視界の外にあるというか、
この夫婦は瞬く間に路上に二人の世界を作り上げていちゃいちゃべたべたな状態に突入していた。
「うふふっ、それじゃあ、あきらちゃんにヤキモチ焼かせちゃったお詫びをさせてもらっていいかな?」
「あきらちゃん」という呼び方に甘ったるさをたっぷりと込めて囁きかけるひかりお母さん。
「『お父さん』とか『あきらさん』っていう呼び方はしょっちゅう聞くけど、
『あきらちゃん』って……あかりじゃねーんだから……」
という軽い突っ込みなど当然聞こえるわけでもない、今の二人の激甘なムードに……、
『こ、これが……『一人の男性に対する愛情表現』ってやつなのか……っ!?』
と、ただただオレは唖然とするだけだった。
甘さをたっぷり含んだひかりお母さんの言葉に、
先程までいじけきっていた人物とは全くの別人かと思うような爽やかな笑顔で……、
「それじゃあお詫びをしてもらおっかな?」
と、まあ嬉しさを隠す気なんか微塵もなく囁きかけるあきらお父さん。
「うん……」
と頬を真っ赤に染めてひかりお母さんは、
あきらお父さんの首に手を回して唇を重ね合わせた。
そのキスは、一見オレにしたのと殆ど変わらなかった。
しかし目をこらし耳をじっとすまして二人の様子を窺うと、
オレにしたのとは全然、根本的な所で全く違っていた。
お互いの舌を絡ませあう粘着な音、重ね合わせた唇からもれる甘ったるい息遣い。
で、顔から下を見てみると……、
ひかりお母さんは胸と太ももの付け根をあきらお父さんの体に擦りつけるようにしてるし、
あきらお父さんはあきらお父さんで、しっかりひかりお母さんの尻……ヒップ……臀部……、
まあ、そういう所に手を回してなんか微妙に動いてるしっ!!
ええと、もうお二人の「過激さ」は十二分に分かりましたから、
ここらで若い者は退散してよろしいでしょうか……?
とにもかくにも、道行く人に同類と思われるのだけは避けようと、
隠密的撤退準備を始めたオレの制服の裾が誰かに引っ張られた。
それはオレが良く知る人間の引っ張り方であることに気付くのに0コンマ1秒と掛からず、
瞬時にオレの背中に大量の冷や汗が走った。
「凄いね……お父さんとお母さん……」
「そ、そうだな……(汗)」
「家でも時々わたしの目の前で、わたしがいることすっかり忘れて、
いちゃいちゃしているけど、あそこまではそう滅多にはしないんだよ」
「へえ……じゃあ、オレ達は非常に珍しいケースに出くわしたわけだな……(大汗)」
「やっぱりヤキモチ焼いたりすると、その後の燃え上がり方も違ってくるんだね」
「そうかも知れんな……で、何時頃からそこにいたんだ?(滝汗)」
「うんとね、お母さんが浩之ちゃんに抱きついてきたあたりからかな?
買い忘れていたものがあったから商店街に来てみたら、
二人が大きな声で言い合いしていてすぐに分かったんだよ?」
「それで、ずっとオレ達の様子を見ていたのか?(激汗)」
「ううん、お母さんが浩之ちゃんにキスするのを見て、一回家に戻ってまたこっちに着たの。
まだ浩之ちゃんがいてくれてよかった♪」
「…………それで、希望としては何枚だ?(涙汗)」
「二枚♪ 一応、不可抗力みたいなものだし・・・ね?」
「予想していたより軽い処置に感謝します……(無条件降伏)」
「えへへへ、それじゃあ、さっそく引いてね♪」
「とりあえず……家に帰ってからにしないか? ここだとさすがに恥ずかしいしな。
それに志保に見つかった日なんか、
翌日『親子二世帯へベールハウスバカップル特集〜〜〜♪』なって、
ネタにされるのは必然だと思うが?(俎板の鯉)」
「うん、それもそうだね。それじゃあ、夕ご飯食べてからにしよっか?」
「それがいいな、夕飯後なら体力も有り余ってるしな(開き直り)」
「もう……浩之ちゃんのエッチ……(ぽっ)」
そう言って、あかりは「おしおき箱」を抱えた反対の腕でオレの腕を抱くように絡ませ、
オレ達二人は「砂糖をたっぷりまぶした生クリーム状のスイートゾーン」を後にした。
しかし、あんな光景を見た後だ。
今夜はいつも以上に激しい夜になりそうだ……、
そんな事を思った時、ふと先程のひかりお母さんの唇の感触が蘇り、オレは少し不安にかられた。
あんな事をされておいて何だかと思うが、
身勝手と言われようと不安なものは不安なのだ。
オレは思い切ってあかりに聞いてみた。
「なあ、あかり……」
「うん?」
「オレ達も将来、あの二人みたいになるのかな……?」
「う〜〜ん、あの二人のように仲良くはなりたいと思ってるよ」
そこで一旦言葉を区切って、あかりはにっこりと微笑みを浮かべてオレを見て言った。
「でも、あの『スキンシップ』だけはやらないけどね」
「それを聞いて安心した……」
「うふふっ♪」
オレの質問の意図などお見通しとばかりに、あかりはオレに笑いかける。
オレは照れクサさを隠す為に、抱えられている腕をするりと抜くと、あかりの肩を抱き寄せた。
あかりはそのまま頭を寄せてきて、オレ達はぴったり密着したまま家路を急いだ。
その日の夜は、結局なし崩し的にというか、しごく当然というか……、
あかりはうちに「お泊り」となり、充分過ぎるくらいに「満たされた」面持ちで、
オレの腕に抱かれてすやすやと眠っていた。
その穏やかで幸せそうな寝顔を見ると、つい30分前までの「激しさ」など微塵も感じられず、
オレはそのあまりの「極端さ」につい苦笑してしまう。
プルルルル……プルルルルルル……
と、そこへ、静寂をやぶるかのように、けたたましく電話の呼び出し音が鳴った。
「なんだ……こんな時間に……?」
今夜はオレ達が夕食を終えて早々にベッドインした為に、
自然と「就寝時間」は切り上げられる事となったわけだが、まだ夜の十一時過ぎだ。
相手方からすれば「こんな時間」ってわけでもない。
とにもかくにも、オレはあかりとマルチをを起こさないよう、
静かに電話のある玄関に向かい、受話器をとった。
「もしもし、藤田ですが……」
「あっ、浩之ちゃん!? もう、ひどいじゃない、知らない間にいなくなってっ!
わたしもあきらちゃんも心配したんだからね?」
むくれた感じのひかりお母さんの声に、
オレは「はぁ……」とひかりお母さんに聞こえないよう小さくため息をついた。
知らない間に……って、あんたら二人が、
二人の世界の真っ只中にいるから気付かなかっただけでしょーが……、
しかし、今の時分に電話かけてるなんて……ひょっとして……?
「あの……ひかりお母さん、ひょっとしてお二人は今の今までキスしてたんですか?」
「いやあねぇ、そんなわけないじゃない♪」
ころころと笑いながらひかりお母さんはオレの疑問を否定してみせた。
そうだよな、いくらなんでも延々6時間もキスなんてなぁ……、
「キスだけで済ますなんて勿体無いから、
そのままエッチになだれこんじゃった……えへ♪」
「そ、そのまま……って……商店街のど真ん中で『しちゃった』んですかっ!!?」
オレは受話器に向かって、思いっきり怒鳴りつけた。
「むぅ〜〜〜〜そんなわけないでしょ!?
いくらなんでも、わたし達にだって慎みくらいあるわよ」
商店街のど真ん中で濃厚なディープキスする夫婦の、何処に「慎み」があるのか、
そこは敢えて聞かないで置く事にしよう。
「公園に場所を移動したわよ」
ぐわこぉぉぉぉぉんっ!!
思いっきり電話機に頭をぶつけ、オレは打った箇所を押さえてうずくまった。
「だって、あきらちゃんったらキスしてる最中に
お尻を撫でまわすんだもん……、
ついつい燃え上がっちゃって、で、家に帰るまで、
あきらちゃんもわたしも我慢できなくなっちゃって……えへへ♪」
我慢しろっ!!(大泣)
今日で何度目だろう、心の中で届かぬ叫びを涙ながらに叫ぶオレの耳に、
ひかりお母さんのお惚気はまだまだ続いていた……、
「公園でなんて、あかりが生まれる前以来でどきどきしちゃったけど、
やっぱりたまにはスリルあるのもいいわよねぇ。
ついつい夢中になって気が付いたら11時じゃない?
あ、そういえば浩之ちゃんはどうしたんだろう、って思ったら姿が見えないから心配したのよ」
「は、はい……心配かけてすいませんでした……」
「うん、分かればよろしい。あきらちゃんが『一緒にお風呂入ろう』って言ってるから、
そろそろ電話切るけど、本当、突然いなくなって心配かけないでね?」
「はぁ……分かりました……」
「ふふっ、それじゃああかりをよろしくね♪
明日も学校だからあんまり『仲良くし過ぎ』ちゃダメよ☆」
「ひ、ひかりお母さん……(大汗)」
「あ、ひょっとしたらお邪魔したかも知れないわね。もしそうだったらごめんね〜〜〜〜♪
じゃ、電話切るから。浩之ちゃんおやすみなさ〜〜〜い♪」
「は、はい……おやすみなさい……」
上の空な状態で返事をし、ひかりお母さんとの電話を終えて受話器を戻したオレは、
がっくりと項垂れて「ふぅ……」と、重いため息をついた。
項垂れ立ち尽くすオレの周囲は静寂な空気に取り囲まれ、
それを破ることは上で眠っているあかりとマルチを瞬時にたたき起こしてしまうかぐらいに思えた。
しかし、例えそうなろうとも、
オレはオレの中に先程から溜まっているものを吐き出さずにはいられなかった。
そうでもしなければ、とてもじゃないがひかりお母さんから電話が掛かってくるまで保っていた精神の安定を取り戻せそうに無かった。
オレは「すぅ〜〜」と息を吸い込み、一旦間を置いてから、
すべての鬱積した気持ちを吐き出すかのように叫んだ。
「夫婦のえっちに着いて行くほど、
オレは出歯亀でもなければ、
野暮天でもねえ〜〜〜〜っ!!」
本当、もう勘弁して下さい。
とほほほほ……、
< 終 >
後書き
ええと……、
またやっちゃいました……てへっ☆
皆様、大いなる寛大な心でもって、
このような話を書いた馬鹿者をお許しいただけたら幸いと存じます。
くのうなおき (ひかりんスキー)
<コメント>
秋子 「母と子のスキンシップ……凄いですね」(^_^;
祐一 「やれやれ……誠達のは見慣れてるけど、
まさか、あんなにすぐ側に同類がいたとはな……」(−−;
秋子 「祐一さん……慣れてるんですか?」(^_^?
祐一 「ええ……あいつら、ほとんど毎日のように……って、秋子さん?」(−−?
秋子 「…………」(*^_^*)
祐一 「あ、あの……その期待に満ちた視線は何ですか?」(^_^;;;
秋子 「…………」(*^_^*)
祐一 「…………」(^_^;;;
秋子 「……うふっ♪」(* ̄▽ ̄*)
祐一 「あ、あははははははははは……」<(T▽T)>