『S・M・L・LL』
〜ツインズ 志保ちゃんSIDE〜







 柔らかな陽射しの中、あたし、長岡志保ちゃんは、
近所の公園で優雅な散歩としゃれこんでいた。

 たまにはなーんにも考えないでアテもなく彷徨くってのも良いものねぇ。

 ―――なんて、ポカポカ陽気を楽しみつつブラブラしていると、

「おう、ちゃんと抱き止めてやるから、安心しろ」

 不意にそんな声が耳に飛び込んできた。

 何事かと思って、その方向へ目を向けると……
 木の枝にしがみついている女の子と、その下で手を大きく広げている誠の姿があった。

「あいつ、いったい何をやってるのかしら?」

 普通に考えれば、『木から降りられなくなっている女の子を助けようとしている図』だと思う。

 でも、誠が絡んでいるとなれば話は別。
 何と言っても、あいつは『歩く非常識』である。

 また、何か常人には理解できない遊びをしているのかもしれない。
 てか、その可能性が非常に高い。

 それでも、万が一に備え、あたしはポケットにPHSが入っている事を確認した。


 ―――その時だった。


「――えいっ!」

 枝にしがみついていた女の子が誠に向かって飛び降りた。



 …………膝から。

 しかも顔面に。

 ごき゜ょっ!! というイヤすぎる音が辺りに響いた。

「……………………」

 あまりと言えばあまりな光景に、あたしは目が点。

「……ま、まあ……誠らしくはあるわ」

 しっかし、あいつってば本当にギャグキャラよねぇ。
 普通、ワザとでもない限り、ああまで見事には決まらないわよ。

 まさか、事前にネタ合わせをしてたんじゃないでしょうね?
 そう疑いたくなるほどの、素晴らしすぎるダイビングニーだった。

「…………まてよ」

 ひょっとしたら本当に『ワザと』なのかも。
 自分でも突拍子もない発想だと思う。

 だけど、何故かその考えを否定する気になれなかった。

「でも、何のために?」

 あたしは腕を組んで考えた。
 そして、暫く思考に浸っているうちに、とある仮定が浮かんできた。

「も、もしかしたら……あれって、誠流の『倒錯的なお楽しみ』だったりして」

 女の子を無理矢理木に登らせて、怯えさせる事によって嗜虐的欲求を満たし、
その子からの攻撃を受ける事で被虐的欲求を満たしているのでは?

 ……………………。

 なんか、それが真実のような気がしてきたわ。
 やっぱりそうなのかも。

 ……………………。

 うん、きっとそうよ。そうに違いないわ。
 だって、完璧に『辻褄が合ってる』し、志保ちゃんの推理が間違うわけがないもの。

 ふっ、さすがはあたしだわ。

 一を見ただけで十を知ってしまうとは。
 いつもの事とはいえ、怖いくらいに冴えてるわね。

 つまり、早い話が……、

「誠って、サド(S)でマゾ(M)でロリ(L)ってことね」

 あたしはニヤリと笑いながらポツリと呟いた。

 すると……、

「うーん……当たらずとも遠からじ、かな」

 それに応える声があった。

 え? と思って振り向くと、そこには可愛らしい小さな女の子がいた。

 い、何時からいたのかしら?
 この志保ちゃんに気配を気付かせないとは……侮れない子ね。

「え、えっと……それってどういう事? あなた、誠の知り合いなの?」

「みーちゃん」

 ちょっぴり不機嫌そうに女の子。

「はい?」

「わたしはみーちゃん。『あなた』じゃないよ」

 あ、なるほど。そういうことか。

 納得したあたしは素直に謝って言い直した。

「ごめんね、みーちゃん。あたしは長岡志保って言うの。
志保ちゃんって呼んでね」

「うん、志保ちゃん♪」

 満面の笑みを浮かべてあたしの名を呼ぶみーちゃん。
 思わず抱き締めて頭を撫でてあげたくなるほどの可愛らしい笑顔だった。

「それで……さっきの話だけど、みーちゃんって誠の知り合いなの?」

「うん」

「そうなんだ。
―――で? 『当たらずとも遠からじ』って、どういうこと?」

「そのままの意味だよ。まこりんって、少なからずそういう面を持ってると思うし」

 ニッコリと笑ってみーちゃんが宣った。

「ふーん。なんか、その口振りだと随分と誠に関して詳しいみたいね。
みーちゃんって誠とどういう関係なの? 親戚とか?」

「わたしとまこりんは深ーい関係だよ」

「…………へ?」

 予想外の解答に、あたしの目が丸くなった。

「切っても切れない固い絆で結ばれてるの」

「そ、そうなんだ。まるで『愛し合っている』とでも言いたげね」

「愛し合ってるよ」

 みーちゃん、サラッと爆弾投下。

「あ、あ、あ、愛し合って……!?
誠とみーちゃんが!?」

「うん」

 ま、誠ってば、こんな小さな女の子と……、

 この子ってば、ロリなんてレベルじゃないわよ。
 ロリを越えたロリ。言うなればロリロリ(LL)。

 そんな子と愛し合ってるなんて……誠って……マジで(自主規制)?

「まこりんとみーちゃんはね、とってもとっても仲良しさんなんだよ」

 嬉しそうに惚気るみーちゃん。

「……………………」

 その横で……、

「一緒にお風呂にだって入ったことあるしね♪」

「……………………」

 あたしは、ただ呆然と立ち尽くすのであった。

 事実は小説より奇なり。

 その言葉を強く噛みしめながら。





 ……次の日、あたしが『志保ちゃん情報』としてこのネタを大々的に公開したのは言うまでもない。








< おわり >





< おまけ >



「くおらーーーっ! 志保ーーーっ!!」

「なによ? ヒロ弐号機」

 志保の元に、誠が凄まじい勢いで走り寄ってきた。

「てめーっ! 何だ、あの『志保ちゃんニュース』は!?
誰がサドでマゾでロリコンだって!? いい加減な噂をばらまくな!!」

 ガルルと噛みつかんばかりの誠。

「失礼ね! いい加減なんかじゃないわよ。
ちゃーんと裏だって取ってあるんだからね! ある人に情報提供もしてもらったし」

「ある人? 誰だよそれ?」

「みーちゃん」

「…………へ?」

 誠の表情が凍り付いた。

「だから、みーちゃんよ」

「…………マジで?」

「マジで」

 即答する志保。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 二人の間に、何とも表現し難い沈黙が落ちる。

 そして、暫しの後……、

「うがああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 滝のような涙を流しながら、誠がドドドーッと爆音を響かせつつ走り去っていった。

「どちくしょおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
俺は無実だ、冤罪だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

「……………………」

 志保は、それを見て少しの間呆けていたが、

「ふっ……う゛ぃくとりー♪」

 気を取り直すと、おもむろにVサインを作って、胸を張って大いに勝ち誇るのだった。





 とにもかくにも、この日以降、誠は更に有名になった。

 学園内での知名度ナンバーワンになる日はそう遠くないだろう。








 では、最後に誠の『親友』という、とある男子生徒からのメッセージを。



「うっふっふっふ〜……まっこっとっく〜〜〜ん♪
そういう趣味があるのなら、最初っから言ってくれればよかったのにぃ。
もしかして、こんなことが僕にバレたら嫌われちゃうって思ってたのかな?
くす♪ おバカさんだね誠くんは……そんなことあるわけがないのに。
僕だったら全然OKさ。誠くんの欲望を全て受け止めてあげるよ。
だから、恥ずかしがらずに、素直に僕の胸に飛び込んでおいで♪
待ってるからね、マイハニー☆

                  誠くんの親友兼永遠の恋人 佐藤雅史より」








< おまけおわる >


 ☆ あとがき ☆

 勢いだけの作品って言わないでね。本人もよーく分かってるから。(はぁと)


<コメント>

誠 「誰がSだ!? 誰がMだ!? 誰がLだ!?
   ってゆーか、LLって、何だぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」Σ( ̄□ ̄メ
志保 「なによ〜? あたとの情報が間違っているとでも?」(−−?
誠 「間違いだらけだろうがっ!!」( ̄□ ̄メ
志保 「じゃあ、訊くけど……好きな子をイジメてみたいって思った事が無い、とでも?」(¬¬)ノ
誠 「ま、まあ、無い、とも言い切れんが……」(−−ゞ
志保 「そういえば、あんたって、よく年上の女の人にイジメられてるわよね?
     あんた、何気にそれを楽しんでたりしてない?」(¬¬)
誠 「そ、そんな事は……あるかもしれないな。
   相手が由綺姉とかだったら、そんなにイヤじゃないし……」(−−ゞ
志保 「ほら♪ やっぱり、全部、間違い無いじゃない♪」(^○^)
誠 「何でそうなるっ!? だいたい、Lについては、何故、何も訊かないんだよっ!?」( ̄□ ̄メ
志保 「だって、イチイチ訊くまでもないし〜♪
    例えば、あかねちゃんとかエリアとか……」ヽ( ´ー`)ノ
誠 「人間〜なんて、ララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜……♪」(T_T)
志保 「はい♪ オチの歌が出たところで、あたしの勝ちね〜♪」(^〜^)v
誠 「人間〜なんて、ララ〜ラ〜ララララ〜ラ〜……♪」(T▽T)

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