Heart to Heart 外伝

あかりとマルチの部活動







 一日の課業の終了を知らせるチャイムが校内中に響き渡り、
その日の当番で校内の掃除を行う者、
部活動の為にグラウンド、体育館、各部室へと足を運ぶ者、
家路に向かう者、帰りに何処かに立ち寄っていこうと、仲間達と連れ立つ者、
様々な目的を持って、生徒達は放課後の時間を過ごそうと動き出した。

 それは、校門の前で語らう4人の男女、正確には三人の少女と一人の少年……、
浩之、あかり、マルチ、葵もまたその例外ではなかった。





「それじゃあ、オレと葵ちゃんは、神社へ行ってくるから」

「うん、夕ご飯作って待ってるからね。帰りに寄り道して、買い食いしちゃだめだよ」

「たくさん作って待っていますから、いっぱい練習してきて、
お腹を空かせて帰って来てくださいね」

 あかりとマルチの笑顔を交えたお願いに、浩之が応える前に、葵が微笑みながら応えた。

「それはもう、先輩にはみっちりと練習を積んで頂きますから、
いくら作りすぎても大丈夫ですよ♪」

「おいおい……、せめて家に帰れるくらいの体力は残しておくよう、
お手柔らかにお願いしますよ〜〜〜、葵ちゃん」

 おどけた調子で、両手を合わせ、「勘弁してくれ」のポーズをとる浩之に、
三人はくすくすと笑った。

「それじゃあ、いつまでもここで長居していても仕方ないから、
練習に行くぜ。晩飯楽しみにしてるからな」

「はいっ、浩之さん、葵さんいってらっしゃ〜〜〜〜い」

「ふふっ、腕によりをかけて作って待ってるから、楽しみにしててね。
あっ、二人共大怪我しないよう、気をつけてね」

 浩之と葵は、「おうっ!」「はい、気をつけます」と二人に答えると、
格闘技同好会の練習場である神社へと向かった。
 
「じゃあ、マルチちゃん、わたし達も帰ろうか?」

「はいっ、夕ご飯が間に合わないと大変ですから」

「ふふっ、今日はお母さんが来る日だもんね」

 苦笑しながら言うあかりに、マルチも「あはは……」と苦笑を返した。








 二人が浩之達とは反対の帰り道を行こうとした時、
後ろから「あっ、あかりさんにマルチ!」と聞き覚えのある声がした。

「あら? 誠君にさくらちゃん、あかねちゃん」

 誠は「どうも」と頭を下げると、「?」と訝しげな表情を見せた。

「あれ? 今日は浩之は一緒じゃないんですか?」

「うん、今日は浩之ちゃんは、格闘技同好会の練習で、葵ちゃんと神社へ行ったの。
だから今日は、わたしとマルチちゃんだけで帰るというわけ」

「あ、そうだったか。」

「誠君達も、今日はもう家に帰るだけでしょ? だったら途中まで一緒に帰ろうか?」

「そうです〜〜〜、皆さん一緒に帰りましょう」

 あかりの提案に、マルチも喜んで賛同した。
 誠達も異存はなく、五人は駅まで一緒に帰る事となった。








「…………」

「まーくん、どうしたの?」

 あかり達に会ってから、ずっと訝しげな顔をして話も上の空な様子の誠に、
あかねは気になって声をかけた。
 誠は、はっとした表情を見せ、「い、いやなあ……」と呟くと、また黙り込んだ。
 そして、しばらくして、意を決した顔を、あかりとマルチに向けた。

「どうしたの? 誠君」

「……いいんですか、二人とも、浩之達の所に行かなくて?」

「う〜〜〜ん、わたし達は格闘技同好会のメンバーじゃないし、
あそこにいても、かえって足手まといになりそうだしね」

「軽いお怪我をされても、浩之さんと、葵さんの二人なら大丈夫ですから」

「それに、わたし達は格闘技同好会より、大事な課外活動があるんだよ」

「大事な……課外活動?」








「うんっ……『藤田浩之部』♪」








「へ……ひ、浩之の……部活ですか……?」

「そうだよ、この部活動はやる事がたくさんあるんだから、
明日の浩之ちゃんのお弁当のメニューを考えたり、夕ご飯を作ったり、
特に、今日みたいに格闘技同好会の練習がある日なんかは、
浩之ちゃん、お腹をすごく空かして帰ってくるから、たくさん作ってあげないとね」

「浩之さんが元気でいられるように、色々することがたくさんあるんですよ〜」

「そう、だから同好会のお手伝いをしている暇はないの♪」

「は、はい……よく分かりました……」

 大変とか、忙しいとかではなく、むしろ楽しくて仕方が無いという口ぶりで、
頬を染めてにこやかに話す二人に、誠はそれしか言えなかった。
 さくらとあかねは、『さすが、あかりさんとマルチちゃん』と感服していた。








 誠達とわかれ、商店街で買い物を終え、あかりとマルチは浩之の家へと帰りついた。
 買い物袋をテーブルに置いて、一息ついてると、玄関のチャイムが鳴った。

「こんにちわ〜〜〜〜〜〜」

 あかりとマルチには、良く知った声が聞こえた。
 『藤田浩之部名誉顧問』(笑)の神岸ひかりである。
 これで、「藤田浩之部」を構成する三名が集い、「部活動」がはじまるのだが……、





「え〜〜〜〜〜〜!? な、なにこれ?お母さんったら、
いつこんな写真を撮ったのよお〜〜〜〜〜〜!!??」

「わ〜〜〜、あかりさんたら、浩之さんの頬にキスしてますう〜〜〜〜〜〜♪」

「え、え、えっと……、二人がこたつで寝ちゃってて、
とっても仲良くくっついていたから、写真撮ろうとしたら、あかりが寝ぼけて、
浩之ちゃんにキスしたのよ〜〜〜〜〜♪」

「うう〜〜〜っ、もう、この頃からお母さんったら、油断も隙もないんだから〜〜〜〜〜(汗)」

「うふふっ、あかりったら、
寝言で『ひろゆきちゃん、だいすき』って言ってキスしてたのよね〜〜〜〜」

「こんな小さい頃から浩之さんが大好きだったんですね、あかりさん♪」

「あ〜〜〜〜〜ん、もう、お母さんも、マルチちゃんも〜〜〜〜〜〜〜〜!
浩之ちゃん、早く帰ってきてえ〜〜〜〜〜」

「ん〜〜〜〜、でも、浩之ちゃんが帰ってきても、
真っ赤になる人が増えるだけだと思うんだけどなあ〜〜〜〜〜♪」

「あうううう〜〜〜〜〜〜、お母さんの意地悪う〜〜〜〜〜」





 ……と、このような具合に、ひかりが来る日は必ずと言って良いほど、
ひかりが持ってきた浩之とあかりの幼少の頃の写真を肴にした雑談会と化してしまうのである。

 もっとも、あかりも口でいうほどには嫌がってるわけではないから、
雑談の時間はどんどん過ぎてゆき、結果として……、








「ううっ……浩之ちゃんごめんね。もう少ししたら、夕ご飯できるから……(泣)」

「もうちょっと、我慢していてください〜〜〜〜〜〜〜〜(泣)」

「あ、ああ……、ま、まあ……あんまり気にしないでくれよ。
ひかりお母さんが来た日は大体こうなるって覚悟はしてたからな……(汗)」

「ううっ、ひどいわ、浩之ちゃん。
それじゃあまるで、わたしがいつも二人の邪魔をしてるみたいじゃないの〜」

「い、いや、そんな嫌味を言ってるわけじゃなんですよお〜〜〜〜〜〜(汗)」

「ぷんだ、そんな意地悪いって、将来の母親をいぢめる悪い息子には、
苦手な物いっぱい入れちゃうんだから」

「わ〜〜〜〜〜っ!! だから、悪意は無いって言ってるでしょうが〜〜〜〜〜……」

「ふふっ、な〜〜〜〜んちゃって♪」

「……うう〜〜〜〜〜、おば……お母さん……」

「も〜〜〜う、お母さんたら、浩之ちゃんをからかわないで手伝ってよお〜〜。
浩之ちゃんお腹すかせてるんだから急いであげないと……」

「はいはい、娘の未来の旦那様のために一働きしましょうか♪」

「うう〜〜〜〜〜……もう……(真っ赤)」

「…………」

 浩之は、ただただ苦笑しながら、てんやわんやの状況を見つめているしかなかった。

 心の底で感謝の想いを抱きながら……、








 『部活動』の時間は、まだまだ続きそうであった。
 賑やかで、そして暖かく、優しい時間が……、






後書き

 お初にお目にかかります。
 某HPで浩之、あかり、マルチの赤面ならぶらぶ話を書いている、
くのうなおきと言います。以後よろしくお願いいたします。

 今回は、HTHの「浩之篇」という事でこのSSを書かせていただきました。
 誠達に勝るとも劣らぬ、ラブラブなこの三人の話、楽しめて頂けたら、誠に幸いです。
 今後も、この話を書いていく予定ですが、もし宜しければご期待のほどを。(^^;;

 それではまた、次回の話で。

くのうなおき


<コメント>

あかね 「……まーくん! まーくん!」(^▽^)
さくら 「私達も部活を設立しました♪」(^▽^)
誠 「ど、どんな部活なんだ? だいたい想像つくけど……」(^_^;
さくら・あかね 「まーくん部♪」o(^〇^)oo(^〇^)o
誠 「誠部じゃなくて『まーくん部』ってトコがそこはかとなく恥ずかしいな」(−−;
さくら 「ちなみに、名誉顧問はお母さん達です♪」(^o^)
あかね 「顧問は先生じゃないとダメだから、ミナト先生かイネス先生に頼もうか?」(^o^)
誠 「……イネス先生だけは勘弁してくれ。色んな意味で危険だから」(T_T)

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