「ねえ、誠君……?」

「にゃんですか、結花さん?」

「あかねちゃんって、
いつも、同じ髪留めを着けてるわよね?」

「そうですね……」

「もしかして……、
何か思い入れがあったりするのかしら?」

「アレ……俺があげた物にゃんです」

「まあ、あの子達には、
それで充分かもしれないけど――」

「…………」

「――訳あり、っぽいわね?」

「タダじゃ話しませんよ」

「お子様ランチ、もう一つ食べる?」

「にゃんで、お子様……」

「ほらほら、早く話してよ♪」








「結花さんは……、
サンタクロースって、いると思いますか?」









Heart to Heart 外伝
まじかるアンティーク編

「小さなサンタクロース 〜The miracle of holy night〜」










 12月24日――

 真夜中に、こっそりと、
家を抜け出した僕は、聖夜の街を歩いていた。

 その手には、小さな紙包みが一つ……、

 お小遣いを叩いて買った、
さくら達へのクリスマスプレゼントである。

 今頃、夢の中にいるであろう――
 大切な彼女達の枕元に、これを届けようと――

 まあ、ようするに……、

 自分が、さくら達のサンタになる為に、
わざわざ、こんな真夜中に、家を出てきたわけだ。

 もちろん、この計画は、誰にも内緒……、

 明日の朝、目を覚まして、
プレゼントを発見した、さくら達の驚く顔が、目に浮かぶようだ。

「えへへ……♪」

 大喜びで、はしゃぎ回る、
さくら達の姿を想像し、自然と、僕の足取りは軽くなる。

 だが……、

「あ……っ!」

 ある事に気が付き……、
 僕は、ピタッと、その場に立ち止まった。

「どうしよう……、
プレゼントが、一つしか無いよ」

 ――そう。
 この手にある包みは、一つだけ。

 しかし、渡したい相手は二人……、

 このままでは、一つ足りない。
 さくらとあかね、どちからにしか渡せない。

「どうしよう……どうしよう……」

 たった一つのプレゼントを前に、僕は、途方に暮れる。

 なんて、馬鹿なんだろう。

 こんな簡単な事に、
今まで、まったく気付かなかったなんて……、

 こんな時間では、もう、プレゼントを買いに行けない。

 そもそも、先立つモノがない。
 今まで貯めたお小遣いでは、これを買うのがやっとだったのだ。

 となれば……、
 残る手段は、ただ一つ……、

 さくらとあかね――
 二人のうち、どちらかを選ぶ――

「そんなの……出来ないよ」

 僕は大きく頭を振ると、
プレゼントを、上着のポケットに突っ込んだ。

「……帰ろう」

 大きく溜息を吐き……、
 トボトボと、力無い足取りで、家へと戻る。

 それが、僕の出した答え――

 どちからを選んで、
どちらかを悲しませるくらいなら……、

 いっそ、どちらも選ばない方が……、

「あ〜あ、こんな事になるなら、
もっと、おやつを我慢していれば良かった」

 自分の馬鹿さ加減に呆れつつ……、

 僕は、手袋を着けてなお、
冷たくなってきた両手に、息を吹きかける。

 見れば、冬の夜空から、ちらほらと、真っ白な雪が……、

「ううっ、寒い……、
早く帰って、サッサと寝ちゃおう」

 あまりの寒さに、ブルブルと、
体を震わせながら、僕は、家へと向かう足を早める。

 と、その時――



「ううっ……ひっく……」(泣)

「――んっ?」



 何処からか……、

 小さな女の子の、
すすり泣くような声が聞こえてきた。

「……?」

 一体、何なんだろう……、

 と、首を傾げながら、
僕は、耳を澄まし、キョロキョロと周囲を見回す。

 そして……、
 すぐに、その声の主を見つけた。

 電柱の影――

 そこを照らす街灯の、
すぐ傍に、小さな人影が、うずくまっている。

 僕は、そこへと歩み寄り……、

「――っ!?」

 その人影の姿を見て、
驚きのあまり、思わず、目を見開いた。

 そこにいたのは、小さな女の子……、

 まあ、小さい、と言っても、
僕よりも、幾つか年上みたいだけど……、

 小さな眼鏡を掛け――
 長く青い髪を、三つに分けた少女――

 真っ赤な帽子――
 フワフワとした赤い服――
 背中に背負われた白い小袋――

 そう……、
 まるで、その姿は……、



「……サンタクロース?」

「え……っ?」



 ――ポツリと、呟きが漏れる。

 その声を耳にし、
泣いていた女の子が、僕を見上げた。

 お互いに、バッチリと目が合う。

「…………」

「…………」

 どうして良いのか分からず、無言で見つめ合う二人……、

 妙に、気まずい雰囲気になり、
僕は、苦し紛れに、片手を軽く上げると……、

「こ、こんばんは……」

「……こんばんは」

「…………」

「…………」

 またしても、無言……、

 いい加減、居心地が悪くなり、
僕は、取り敢えず、彼女を立たせようと、手を差し伸べた。

 だが、その時、彼女の体が、小刻みに震えている事に気付き……、

「……寒くない?」

「ちょっと……」

 訊ねる僕に、女の子が、小さく頷く。

 そんな彼女の姿を見て、
僕は、懐に入れていた、使い捨てカイロを取り出した。

 家を抜け出す時、何故か、玄関に置いてあったんだけど……、

 良かった……、
 一応、持って来ておいて……、

「これ……まだ、あったかいよ」

「……良いの?」

「うん……まだ、持ってるから」

 カイロを手渡した僕は、
今度は、水筒の中のココアを、コップに注ぐ。

 さらに、ポケットの中に入れておいたチョコレートを半分に割って……、

「……これも、あげる」

 湯気を上げるコップと一緒に、それを彼女に渡した。

 実は、このココアもチョコレートも、
カイロと一緒に、玄関に置いてあったのだ。

 何故、そんな所に置いてあったのか不思議だけど……、

 まあ、役に立ってるし……、
 こういう偶然もあるのだ、と納得しておこう。

 と、それはともかく――

「あったかい……」

「そうだね……」

 二人で一緒に、チョコを一口齧っては、ココアを啜る。

 何度か、それを繰り返し、
体が温まってきた事で、落ち着いてきたようだ。

 先程まで泣いていた女の子の瞳には、もう、涙は見られない。

 そろそろ、頃合いか……、

 そう考えた俺は、
残りのココアを飲み干すと、彼女に向き直る。

 そして……、

「ねえ、何で泣いてたの?」

「…………」

 訊ねる僕に、女の子は……、
 両手で、コップを包んだまま、ゆっくりと話し始めた。

     ・
     ・
     ・








 ――彼女は、『サンタクロース』と名乗った。

 いや、正確には……、
 彼女は、サンタクロースの孫、とのこと。

 彼女のお爺さん……、
 即ち、本物のサンタクロースは……、

 毎年、聖夜になると、サンタの国から、
こちらの世界へとやって来て、子供達にプレゼントを配っているそうな。

 で、今年の聖夜――

 彼女は、それを手伝う為、
お爺さんと一緒に、トナカイのソリに乗って来た。

 そして、一件だけ……、
 プレゼントの配達を任されたらしい。

 と、そこまでは良かったのだが……、

 意気揚々と、お爺さんと分かれた彼女は、
しっかりと、プレゼントを袋に入れ、配達先の家へと向かう。

 その途中、強い風が吹き……、

 配達先まで地図が書かれたメモを、
うっかりと、風に飛ばされ、無くしてしまったそうな。

 しかも、そのメモには、
お爺さんとの合流場所も書いてあったらしく……、

     ・
     ・
     ・








「――ようするに、迷子?」

「うん……」

 話を聞き終え――

 確認するように言う僕の言葉に、
サンタちゃん(仮)は、恥ずかしそうに、コクッと頷く。

 そんな彼女の様子に、僕は、やれやれと肩を竦めた。

「ドジだな〜……」

「ううっ……ぐすっ」

「あ……」

 ――しまった。
 また、泣かせてどうする。

 僕は、自分の軽率さに、舌打ちをする。

 まったく……、
 せっかく、落ち着いた、ってのに……、

「――そ、そうだっ!
せめて、配達先の名前だけでも分からない?」

 サンタちゃんの瞳が、再び、涙で滲み始める。

 そんな彼女を元気付けようと、
僕は、慌てて、話題を変える事にした。

 すると、サンタちゃんは、しばらく考え……、



「――こうさか たまき」



 ……どうやら、覚えていたようだ。

 意外に、しっかりとした口調で、
自信ありげに、配達先の名前を教えてくれた。

「こうさか……?」

 それを聞き、今度は、僕が首を傾げる。

 ――はて?
 何処かで、聞いた事があるような?

 こうさか……こうさか……、

 ああ、もしかして……、
 あの大きな屋敷の『向坂』か?

「うん……そこなら知ってる」

「お友達なの?」

「そういうわけじゃないけど……」

 サンタちゃんの言葉に、俺は、ポリポリと頭を掻く。

 『向坂 環』――

 会った事が無い、わけじゃない。
 話をした事が無い、わけでもない。

 イジメられっ子の僕を、
助けてくれた、近所の子供達を牛耳る少女……、

 あの強烈な印象は、一度、会ったら忘れられない。

 尤も、相手が、こっちを、
覚えているとは限らないので、面識は、ほとんど無いに等しい。

 ――とはいえ、あんなに大きな屋敷だ。

 例え、本人を知らなくても、
この辺に住んでる者なら、家の場所くらいは分かる。

「……連れて行ってあげるよ」

「で、でも……」

「いいから……ほらっ!」

「あ……っ!」

 何を遠慮しているのか……、

 逡巡するサンタちゃんの、
小さな手を握り、僕は、強引に歩き出す。

 サンタちゃんは、踏み止まって抵抗するが、問答無用だ。

 僕は、グイグイと、
彼女の手を引いて、先を急ぐ。

 そのうち、サンタちゃんは、抵抗するのを諦め……、

 僕とサンタちゃんは、
手を繋いだまま、向坂邸へと向った。

     ・
     ・
     ・








 そして――
 向坂邸の門の前――

「さてと……ここから、どうするの?」

「む〜……」

 見上げんばかりの、
大きな門を前に、僕は、サンタちゃんの方を見る。

 強引に連れて来た所為だろう……、

 ご機嫌斜めのサンタちゃんは、
僕の質問に答えず、プイッと、そっぽを向いてしまった。

 そのまま、門の方……、
 ではなく、塀の方へと、無言で歩いていく。

「……何してるの?」

「環ちゃんの所まで行くの。
ちゃんと、枕元に、プレゼントを置いてあげるの」

「ポストの中じゃ、ダメなの?」

「……そんなの、サンタじゃない」

「なるほど……」

 確かに、プレゼントを、
ポストに入れるサンタなんて、間抜け過ぎるよな。

 その言葉に納得し、僕も、サンタちゃんに続く。

 だが、小さな僕達では、
屋敷を囲う塀は、あまりにも高く……、

 仕方なく、僕達は、適当なきに登って、塀を乗り越える事にした。

「こういうのって、
不法侵入って言うんだっけ?」

「私は、サンタだから良いの」

「勇者が、勝手に、人の家の、
タンスを開けても、怒られないのと同じかな?」

「な〜に、それ?」

「……ううん、何でもない」

 と、そんな話をしつつ……、
 僕達は、木を登り、枝を伝って、塀の上へと移る。

 まずは、僕が、そこから飛び降り、向坂邸の庭へと入った。

 そして、今度は……、
 サンタちゃんが、飛び降りる番なのだが……、

「はう、ううう〜……」

「…………」

 これも、お約束、と言うか……、
 サンタちゃんは、怖がって、降りて来ようとしない。

「ほら、早く……」

 僕は、彼女を急かすように、両手を差し伸べる。

 サンタちゃんは、そんな僕と、
地面を、何度も見比べ、戸惑っていたが……、

 やがて、意を決すると……、
 思い切り良く、塀の上から、飛び降りてきた。

 ……僕に向かって。


 ドサ……ッ!!


「――きゃ!?」

「むぎゅ……っ!!」

 いくら、女の子とはいえ、小さな僕に、
同じ年頃の子を、受け止められるわけがない。

 僕とサンタゃんは、見事にぶつかり……、

 彼女の体を支えきれず、
僕は、サンタちゃんの下敷きになってしまった。

「痛いよ……」

「ゴ、ゴメンなさい……大丈夫?」

 完全に、僕を尻に敷いていたサンタちゃん。
 慌てて、僕の上から飛び退くと、ペコペコと、頭を下げる。

 そんな彼女を一瞥すると、
僕は立ち上がり、服の汚れを手で払った。

 その際、サンタちゃんの体を、軽く点検してみる。

 良かった……、
 どうやら、ケガは無いみたいだ。

 それなら、下敷きになった甲斐もあったというものである。

「僕は、大丈夫……、
それより、早く、環ちゃんの部屋に行こう」

「う、うん……」

 アクシデントはあったものの……、
 僕達は、なんとか、向坂邸の敷地内への進入に成功した

 とはいえ、いつ、誰かに見つかるか分からない。

 僕は、急いで、目的を、
果たそうと、サンタちゃんを促した。

 と、その途中――



「あ、あのね……?」



 サンタちゃんは、足を止め、
手をモジモジさせながら、僕に話し掛けて来た。

「んっ……なに?」

「どうして、手伝ってくれるの?
私とは、ついさっき会ったばっかりなのに……」

「それは……」

 彼女に訊かれ、僕は、ちょっと考える。

 そして……、
 軽く苦笑して見せると……、

「サンタの仕事を手伝う、なんて、
滅多に出来ないし、ちょっと面白いだろ?」

「……そうかな?」

「うん、それに……」

「――それに?」

 サンタちゃんって、
危なっかしくて、放っておけないし……、

 なんて事は、流石に、本人を前にしては言えない。

「いや、何でもない……、
ほらっ、そんな事よりも、急がないとね」

 僕は、適当に誤魔化すと、
訝しがるサンタちゃんを伴い、屋敷へと急いだ。

「う〜ん、何処が、
環ちゃんの部屋なんだろう?」

「適当に除いていけば、そのうち見つかるよ」

 なんて、お気楽に考えつつ……、

 縁側から、家へと上がり、
こっそりと、襖を開けて、部屋の中を確認していく。

 そして……、
 次々と、襖の向こうを除き……、

「ここ……みたいだね?」

「うん……」

 意外に、アッサリと……、
 環ちゃんの部屋を、見つける事が出来た。

 ――意外と、綺麗な部屋だ。

 イジメっ子達を蹴散らしていた、
あの武闘派な姿からは、とても想像出来ないが……、

 さくらの部屋みたいに、ヌイグルミや、可愛い小物があって……、

 整頓の行き届いた……、
 とても、女の子らしい部屋である。

 そんな部屋の内装に、ちょっと面食らいつつ……、

「静かに……静かに……」

 抜き足、差し足、忍び足――

 慎重に、足音をたてないよう、
僕達は、部屋へと入り、ベッドへと近付いていく。

 そして――



「す〜……す〜……」



 ターゲットを発見――

 これより、捕獲……、
 じゃなくて、プレゼントを渡します。

「さあ、早く……、
目を覚ましちゃわないうちに……」

「う、うん……」

 僕の言葉に、コクリッと頷き、
サンタちゃんは、緊張した面持ちで、小さな袋の中に手を入れる。

 すると、中から出てきたのは……、

「――っ!?」

 驚きのあまり、思わず、
声を上げてしまいそうになり……、

 僕は、慌てて、両手で口を塞ぎ、それを呑み込んだ。

 いや、これは……、
 さすがに、驚かされた……、

 なにせ、袋の中から出てきたのは……、

 明らかに、袋の容積を越えた、
大きな人型のヌイグルミだったのだ。

「…………」

 その光景を前に、僕は言葉も出ない。

 彼女の言葉を、
信じていなかったわけじゃない。

 とは言え、半信半疑だったのも事実……、

 でも、こんな光景を、
目の前で、見せられてしまっては、もう、信じるしかない。

 まさに、魔法――
 まさに、サンタクロース――

「そ、そんなので良いんだ?」

 沸き立つ興奮を抑えつつ、
僕は、サンタちゃんが取り出した、ヌイグルミを眺める。

 人型のヌイグルミ……、
 どうやら、男の子を模してるみたいだけど……、

 あんまり、可愛いとは思えない……、

 ってゆ〜か、こういうのは、
環ちゃんのイメージに合わないような気もするが……、

 と、僕が首を傾げていると……、

「サンタの袋はね……、
必ず、その子が欲しい物を出すんだよ」

 そう言って、サンタちゃんは、ニッコリと微笑んだ。

 だが、その笑みも、
すぐに、困ったような表情に変わってしまう。

「でも、環ちゃんが、
本当に欲しかったモノは、出せなかったみたい」

「……そうなの?」

「魔法は万能じゃないから……、
だから、このヌイグミは、その代わりなの」

 ゴメンね、と呟いて、サンタちゃんは、
寝ている環ちゃんの隣に、そっと、ヌイグルミを置いた。

「ん〜、タカ坊〜……」

 その気配を察したのか……、

 環ちゃんは、ヌイグルミを、
ギュッと抱きしめ、嬉しそうに頬擦りを始める。

「ぷっ……」

「クスッ……」

 その様子を見て、僕達は、
顔を見合わせ、必死に笑いを噛み殺す。

 そして……、

「どうやら、満足してるみたい」

「そうだね……、
じゃあ、そろそろ、戻ろう」

「――うん」

 僕達は、頷き合い……、
 静かに、環ちゃんの部屋を後にした。

 ――おやすみ、環ちゃん。
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「――もうすぐ、かな?」

「うん……」



 夜明け前――

 僕達は、近所の公園の、
ブランコに座り、その時を待っていた。

 もうすぐ、サンタちゃんのお爺さんがやって来る。

 待ち合わせ場所の示したメモは無いが……、

 サンタちゃんが、向坂邸の、
近くにある公園、とだけは覚えていたのだ。

 その条件に該当する場所は一箇所のみ……、

 僕は、サンタちゃんを、
公園へと案内し、そこで、彼女の迎えが来るのを待つ。

 待ち合わせ時間は、夜明け――

 朝日が昇ると同時に……、
 僕と、サンタちゃんの、別れの時間はやって来る。

「…………」

「……どうしたの?」

 ぼんやりと、星空を見上げるサンタちゃん……、

 一体、何を思っているのか……、
 気になった僕は、彼女の顔を覗き込む。

「環ちゃん……嬉しそうだった」

「――えっ?」

「私には……サンタさんはいないのかな?」

 羨ましげに、サンタちゃんが呟く。

 それを聞き、僕は、
なんとなくだけど、彼女の想いを察した。

 ――そう。
 彼女は、羨ましいのだ。

 そして、それ以上に、寂しいのだ。

 サンタは、子供の夢……、

 でも、本物のサンタである、
彼女にとって、それは、夢ではなく、真実……、

 ……だから、いないのだ。

 何処にも……、
 彼女にとっての、サンタクロースは……、

「…………」

 そう思った瞬間、僕は、立ち上がった。

 そして、サンタちゃんの、
赤い帽子を取り、無造作に、自分の頭に被せる。

「……?」

 僕の、突然の行為に、
目をパチクリさせるサンタちゃん。

 そんな彼女に構わず、僕は、サンタちゃんの正面に立つと……、

 さくら、あかね――
 来年は、ちゃんと渡すから――



「これ……プレゼント」



 そう言って、プレゼントを……、

 大切な二人に詫びながら、
ポケットの中にあった『物』を、差し出した。

 さくら達の為に買った物――

 そんな物で、申し訳なかったが、
今の僕には、これしか渡せる物が無い。

「…………」

 未だ、状況が掴めていないのか……、

 サンタちゃんは、プレゼントを、
差し出す僕の顔を、呆然と見つめている。

 さすがに、焦れて来た僕は、彼女の手に、包みを握らせると……、

「僕が……キミのサンタなるよ」

 照れクサさに堪えかね……、
 まともに、顔を合わせられなくなった僕は、彼女に背を向けた。

 ううう……、
 なんて、クサい台詞を吐いてるんだ……、

 こんな事、さくら達にだって、言ったこと無いのに……、

 と、自分の行為の、
あまりの恥ずかしさに、身悶えていると……、

「あ、あの……こっち向いて」

「う、うん……」

 か細い、彼女の声に呼ばれ、
僕は、ギクシャクとしながら、ゆっくり振り返る。

 すると……、



「に、似合うかな……?」



 三つの髪留めで、分けられていた彼女の髪……、

 そのパステルブルー髪が、
紺色のリボンによって、一つに纏められていた。

 ――そう。
 それは、僕が上げたプレゼント。

 サンタちゃんは、それを、
ちゃんと受け取り、身に着けてくれたのだ。

「ありがとう……大切にする」

「うん……」

 ニコリと微笑むサンタちゃん。

 そんな彼女見て、僕は、
余計に照れクサくなり、また、そっぽを向いてしまう。

 でも、ちょっと、自分が誇らしくもあった。

 恥ずかしい思いはしたけど……、
 こうして、サンタちゃんの笑顔を取り戻せたのだから……、

 僕は、サンタちゃんの『サンタクロース』になれたのだから……、

「もう、時間みたい……」

「そうだね……」

 街並みの向こうから……、
 ゆっくりと、朝日が差し込んでくる。

 その眩しさに、目を細めつつ、僕は、サンタちゃんに視線を戻し……、

「――あっ!」

 彼女の体が……、
 うっすらと、輝き始めているのを知った。

 ああ……、
 これで、お別れなんだな。

 きっと、もう二度と、会えないんだろうな。

 それを悟った僕は、
フラフラと、彼女に歩み寄り、手を伸ばす。

 そんな僕に、サンタちゃんは、瞳に涙を溜めながら……、

 それでも……、
 精一杯に、微笑んで見せると……、



「私からの、プレゼント……」



 そう言って……、
 僕に『何か』を差し出した。

 それは、赤い髪留め――

 さっきまで、彼女の髪を、
綺麗に飾っていた、三つの髪留めであった。

 それを、僕に握らせ、サンタちゃんは、手で包み込む。

 その間も、彼女の体を包む、
黄金色の光は、どんどん、強くなっていた。

 その輝きは、朝日よりも眩しくて……、

 それでも、僕は……、

 僕達は、目を逸らさず……、
 握り合った、お互いの手を離さぬまま……、

     ・
     ・
     ・



「さよなら、じゃないよ……」

「……本当?」

「また、会えるから……」

「そうだよね……、
また、いつか、会えるよね」

「だから、その時まで――」

「うん、その時まで――」
















「「――またね」」
















 そして……、

 少女は、姿を消した。
















「…………」

 無数の小さな光となって……、

 サンタちゃんは、
冬の朝空の向こうへと消えていく。

 目を凝らせば、空の彼方に、サンタの駆るソリの姿が……、

 それを目に焼き付けようと――
 涙で滲んだ瞳を、拭わぬままに――

 僕は、その姿が見えなくなるまで――

 いつまでも……、
 サンタクロースを見送り続ける。

 ――まるで、夢の中のような出来事。

 でも、決して夢なんかじゃない。

 確かに、ここに……、
 僕の目の前に、サンタちゃんはいた。

 二人で話をして、街を歩いて……、

 プレゼントを届ける、という、
目的を果たした時には、一緒に、喜び合ったのだ。

 そして――
 その証拠は――

 今も、僕の手の中に――

「プレゼント、か……」

 サンタちゃんから受け取った物を見た。

 それを見て、僕は、
彼女が言っていた言葉を思い出す。



 サンタの袋はね――
 必ず、その子が欲しい物を出すんだよ――



 ああ、やっぱり……、

 間違いなく……、
 あの子は、サンタクロースだった。

 何故なら、あの子は……、

 欲しかったモノを――
 一番、必要としていたモノを――

     ・
     ・
     ・
















 僕のために……、

 プレゼントしてくれたのだから……、
















 ……。

 …………。

 ………………。
















「ふ〜ん……、
じゃあ、その髪留めが……?」

「あかねが使ってる、髪留めにゃんです」

「……残りの二つは?」

「一つは、さくらが……、
最後の一つは、俺が持ってます」

「……大切にしないとね」

「はい……」

「それはそうと……、
そのサンタの子には、再会できたの?」

「…………」

「まだ……なんだ?」

「……でも、信じてますから」








 いつか……、

 また、出会える、って……、








<おわり>
<戻る>








 おまけ――


「なるほどね〜……、
リアンのリボンって、そういう経緯があったんだ」

「はい、姉さん……、
だから、これは、私の宝物なんです」

「ふ〜ん……」(ニヤニヤ)

「……な、何ですか?」

「もしかしたら、それが、
リアンの初恋だったのかな〜、ってね」

「それは無いですよ……、
だって、その子には、もう好きな子がいましたから」

「な〜んだ、つまんないの」

「もう、姉さんったら……」

「まあ、それはともかく……、
いつか、また、その子に会えると良いわね」

「もう、出会ってるかもしれませんよ?」

「――えっ?!」

「ふふふふ……♪」


あとがき

 祝200万HIT突破っ!

 というわけで、ここに、
200万HIT突破記念SSを公開させて頂きます。

 よく考えると、こ〜ゆ〜あったかい話は久しぶり……、(笑)

 まあ、それはともかく……、
 このお話は、あかねの、髪留めに関するエピソードです。

 冒頭と最後の部分は、
誠が幼児&猫化している時の、結花とのやり取り……、

 そして、それは、誠の幼少時の思い出話へと発展していきます。

 意外な人物の登場や、サンタ少女の正体etc――

 200万HIT突破を、
記念するに、相応しいSSになった、と思います。

 ちなみに、この話……、
 ボクが十年程前に書いたモノを手直ししたモノでして……、

 今、読み返してみると、
いやはや、何とも荒い部分が多いな〜、と……、(笑)