その現象を――
「自然」か「不自然」かと聞かれれば――
――大抵の人は、「不自然」と即答するだろう。
だが、その現象を、日常のものとしていた俺は……、
未だに、答えが出せずにいた――
Heart to Heart 外伝
まじかるアンティーク編
「意思が宿るモノ」
それは、フリーマーケットで、仕入れて来た物だった。
ハッキリと覚えている訳ではないけど、それだけは確かだ。
アレは、スフィーが見つけて、
買った後で材質が判明した物だった。
そして、アレが、五月雨堂の店頭に並べられてから、数ヶ月あまり。
俺の疑問は、未だに解消されていない――
「健太郎さん……俺、骨董品とかには詳しくないんですけど――」
俺がいるのは、五月雨堂から、
少し離れた、住宅街の内の一軒、藤井家だった。
「何と言うか……とりあえずは、
これを見て、どう思うかだけ聞かせてくれるか?」
「まあ、それくらいなら構いませんよ」
本来であれば、骨董品の相談はスフィーとするのが普通だ。
理由としては、パートナーとして、というのもあるし、魔法使いとしての視点、というのもある。
スフィー自身の観察力も、
充分信頼できるし、魔法が関わることならエキスパートだ。
ならば、自分の所にどうして俺が相談しに来たのか。
誠は、きっとそう考えていることだろう。
困惑顔の誠を前に、俺は包みの布を開く。
「へえ……」
筆箱より少し小さいくらいの、
黒っぽい箱の中に入っていたのは、一見、何処にでもありそうなフォーク。
ただ、その輝きは、見る人によっては明らかに違って見える。
俺が持って来たのは、純銀製のシロモノだった。
「――どう思う?」
俺が口を開いたのは、十秒くらい経ってからだった。
決して、お互いの沈黙が絶えられなかったからじゃないぞ?
ただ、誠がいつになく真剣な表情で、
悩んでるみたいだったから、邪魔したくなかっただけだ。
「いや、何て言っていいのか……こう、何か……」
言葉に詰まる誠。
言っていいものかと悩んでるというよりは、
どう表現すればいいか分からないって感じだ。
少なくとも、誠が何かを感じてるってことは、俺の予想もまんざらじゃないってことか?
「あの、健太郎さん……、
これがただのフォークじゃないのは分かりますけど、どうして、俺の所に?」
ああ……、
やっぱり来てしまったこの質問……、
「……とりあえず、落ち着いて聞いてくれな」
俺達の間では、スフィーの食べっぷりは、もはや常識だ。
誠の知り合いには、
それに匹敵するような女の子が数人いるらしいが……、
それはさておき――
家族にそんな人物がいれば、当然、どこの家でも、同じような問題に直面する。
分かりやすく言えば、食費の問題だ。
まあ、最初こそ驚いたものの、店の方も順調だし、
スフィーが働いてくれるお礼という意味でも、最近まではあまり気にしなかった。
しかし――
家計を、店を預かる身――
家計簿をチェックしていて、俺は気づいた。
――食費、上がって来てないか?
毎月、ほぼ一定値を保っていたはずの食費が、ある月を境に、上昇傾向にあった。
誠のPCの表計算ソフトで、
グラフを描けば、きっと右肩上がりの線が出るだろう。
もちろん、食材が高価になった訳じゃない。
買い込む量(=消費量)が多いんだ。
それで当然、上がり始めた月に、何があったかを考えてみる。
その結果が、このフォークだ。
その月に買って来て、未だにさばけていない。
確か、銀には意思が宿るとかなんとか。
もしかしたら……、
魔力的な何かがあるのかもしれない、と。
「なら、直接、スフィーさんに聞けば良かったんじゃ……」
「今朝、聞こうとしたら、目の前でシュイン使って逃げられた」
さすがは、スフィー……、
しっかり、エリアちゃんの魔法までマスターしてたか……、
「本当はエリアちゃんに見てもらうつもりだったんだけど、いないみたいだしな。
一応、誠にも見てもらおうと思って」
魔法使い、という意味でなら、リアンも候補に上がるけど……、
結花の所で、忙しくしてる所にお邪魔するのは、ちょっと……という感じがする。
ちなみに、期待していた長瀬さんは留守だった。
何でも、急用で関西のほうにいるとか。
「フリーマーケットで、スフィーが見つけた物だから、
何かあるんじゃないかなー、とは思ったんだけど……」
「逃げたってことは、何か言いにくいことなんじゃないですか?」
なら、追求しちゃいけないことなのかもしれない。
――でも、追求するべきことだったら?
そう考えると、どちらにも進めない。
だからこその行動。
「その辺りを確かめたくて、相談しに来たんだけどな。
やっぱり誠も、何か感じるのか?」
目に見えないモノに関しては、俺より誠の方が分かるだろう。
「感じるって言うか、何かが湧き上がって来るって言うか……懐かしいって言うか……」
ううむ……
反応アリと見た。
「う〜〜〜〜……」
「あ、いや……そんなに考え込まなくてもいいって」
唸る誠――
その視線は、強くフォークに注がれている。
すたんっ!!
と、突然誠が立ち上がった!
「――ホットケーキ」
「……はい?」
ポツリと呟いた。
その言葉の意味を図りかね、俺は聞き返す。
「すみません、健太郎さん……、
俺、これからHONEY BEEに行って来ます」
「えっ? えっ?」
「突然で、随分、勝手かもしれませんけど、あの20段重ねホットケーキが、
俺を呼んでいるような気がしてならないんです!」
いつになく、マジな表情だった。
誠がこんな顔するの、見たことないぞ!?
――それから、誠の行動は、とても早かった。
財布をポケットに押し込み、
上着を羽織ると、嵐のような激しさの走りで道路を駆けていく。
俺も必死で追うが、直線、コーナーともに離されてしまい、1分も経たずに見えなくなってしまった。
「……ま、行き先は分かってるんだし」
その日――
HONEY BEEでは――
――ホットケーキだけで通常の倍の売り上げを見せたらしい。
だが、その現場は……、
少々、物理法則を無視した様相だったらしいが……、
その日から、一ヶ月――
あのフォークを買いたいと言う客は、未だ現れない――
あ、まさか――
スフィーが持ち主として選ばれたのか!?
「おい、陣九朗……、
このフォークは、また魔力付与してあんのか?」
「――ん? ああ……してることはしてるが、微妙にな」
「マメなもんだな……、
で、今回も、あのアクセサリーと同じようなのか?」
「いや、フォークにお守りみたいな効果を付与しても、な。
こっちには、簡単に言うと『食欲増進』とかだ。
ご飯が美味しく食べられるとか、そんな感じ。
ただ、効果は薄めてあるし、相性とかもあるから、拒食症の人にあげても効果はないぞ」
「なら、誠が買ってったら、どえらいことになるな」
「……絶対に、誠には売るなよ」
デュラル家一行が、フリマに赴く前日――
津岡家での、陣九朗とイビルの会話――
かくして、大食いレンジャーを最強たらしめる武器は、善意から生み出された。
そして、陣九朗が一緒に作ったスプーンは、某お嬢様の手へ渡る。
それが――
新たなる戦いの幕開けだった。
大食い記録の更新は、激化する――
<おわり>
あとがき
まじかる☆アンティークの作中で、「ビクトリアン・デザートフォーク」という品があります。
入手すると、スフィーの食欲がアップするという、
恐るべき(笑)純銀製のフォークです。
当初は、誠の食欲が刺激され、スフィーと一緒に、
ホットケーキ食べまくるだけだったのですが、途中から路線変更。
結果、こんな風になりました。
原因は、実力不足で間違いないでしょう(爆)
誠っぽくない。健太郎っぽくないってツッコミは、勘弁してください。
ツッコミ代わりにウィルスメール送られるくらいは覚悟してますが……、
以下余談――
当初、Googleで「ビクトリアン・デザートフォーク」と検索かけて、
復習してたんですが、そこで、ビックリ。
気になるページがあったのです。
第5話「いんた〜みっしょん」と……、
開いてみると、あら不思議。
まだ読んでませんでしたが、「セリスちゃんの日常」でした。
電子の海は、広いようで意外と狭いものですかね?
でわでわ〜。
<コメント>
誠 「――最近さ、また、食事仲間が出来たんですよ」(^▽^)
すばる 「ぱきゅ? どんな人ですの?」(・_・?
誠 「セイバーさん、って言うんだけど……、
彼女の恋人さんが、凄く料理が上手いらしい」(^_^)/
スフィー 「ほほ〜、それは興味深いわね♪」(^¬^)←(フォーク持って)
誠 「だろ? それで、だ……、
実は、セイバーさんに招待されててさ」( ̄ー ̄)
楓 「……行きます」(−o−)←(フォーク持って)
みさき 「もちろん、私も連れて行ってくれるよね?」(^_^)←(スプーン持って)
誠 「はいはい、それじゃあ、冬木市にレッツらゴ〜♪」(^○^)←(フォーク持って)
すばる 「たのしみですの〜♪」(^▽^)←(スプーン持って)
一方、衛宮邸にて――
セイバー 「――という訳です」(−o−)
士郎 「なんですとぉぉぉぉーーーーっ!!
こ、こうしちゃいられんっ! か、買出しに……、
おい、桜! 遠坂! ついでに、アーチャー!
頼むから、協力してくれぇぇぇーーーーっ!!」Σ( ̄□ ̄)
凛 「別に良いけど……」(*^^*)
桜 「魔術師の基本は等価交換ですよね?」(*^^*)
アーチャー 「やれやれ……食材に溺れて溺死しろ、小僧」ヽ(
´ー`)ノ
士郎 「なんでさ……、
なんで、こんな事に〜〜〜……」(T▽T)
セイバー 「晩御飯が楽しみです♪」(*^^*)←(フォーク持って)